車いす利用者と新幹線に乗ってわかったこと 現場スタッフは丁寧だが、改善すべき課題も

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側窓にはロールカーテンも備わる。枕の上に「寝台にする方法」という記載があった。車内で急病人が発生した場合などにも、休める場所として使われるからだ。

篠原さんが「せっかくだから寝台にしよう」と言い出す。私が「10分しかないのですが、間に合いますか」と聞くと、「大丈夫だよ」と言われる。篠原さんは電動車いすに移動し、個室外に出た。枕を外して、座面を引き出すという説明書きで枕を外していると、すぐに女性アテンダントが気づき、寝台への変換操作をしてくれた。

寝台幅はかつての開放形A寝台に近い広さで、80~90cmくらいある。寝台長さが1.6m程度でやや短く見えるので、少し斜めに寝るのかもしれない。私たちが満足すると、アテンダントが迅速な操作で座席に戻してくれた。

アテンダントは新横浜駅の下車扉を教えてくれ、到着すると男性スタッフが瞬時にスロープを展開する。そしてホーム上の倉庫にスロープを収納すると、11号車の前にある業務用エレベーターに私たちを案内する。すぐ近くが改札で、すばらしいサービスだ。改札では私が切符を見せると、帰りの予約もその場で確認してくれるなど、安心感がある。

車いす対応座席を使用してみた

帰路は車いす対応座席。ひじ掛けを跳ね上げられるので、介助者による車いすからの横移動が容易だ。N700Aでは、11号車で2+2列となっている区画の後列だけが車いす対応座席である。N700Sでは前列、後列どちらも対応座席になったが、なぜ後列だけなのか不思議に感じた。

11号車に到着したが、品川駅のエレベーターは2号車付近にあるため、品川駅に着いてからエレベーターに乗るまでが非常に遠い。混雑時は業務用エレベーターへの案内も必要かもしれない。

品川駅から新宿駅までは山手線である。JR東日本品川駅、新宿駅のスタッフはともに熟練しており、車いすを先導して買い物のお店の場所やトイレに最短ルートで案内してくれる。新宿駅の車いす対応トイレの前でクルーに話を聞いた。

「車いす対応トイレを一般の方が使うことが多く、15分くらいお待たせすることがあり、心苦しいときがあります」「スマホで音楽を聞いている方は『車いすの方が通ります』と声かけしても気づかないので、怖いですね」という言葉が印象的だった。

新宿駅のクルーは改札から出て、京王電鉄新宿駅まで案内すると、京王の駅員に引き継ぎをしてくれた。丁寧な仕事ぶりに心から感心した。現場スタッフはみな丁寧に対応してくれていたと感じる。あとは窓口での設備案内や乗降駅への連絡の徹底、時代に合った運賃制度の実現といったソフト面での改善を進めば、車いす利用者もより安心して旅ができると思われる。

安藤 昌季 乗り物ライター

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あんどう・まさき / Masaki Andou

1973年、東京都生まれ。編集プロダクション「スタジオサウスサンド」代表で、通勤電車の座席から寝台まで広く関心を持つ「座席鉄」。「鉄道ぴあ」「旅と鉄道」「AERA.dot」「週刊日本刀」などで、乗り物・歴史関係の執筆を広く手掛けるほか、鉄道キャラクター企画、ゲームデザイン、イベント主催なども。著書は「教えてあげる諸葛孔明」(角川ソフィア文庫)、「夢の新幹線 ものしり学習帳」(玄光社)「日本全国2万3997.8キロ イラストルポ乗り歩き」(天夢人)

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