サムスン李会長が入院、進む後継体制の準備 株式所有構造の単純化作業が加速

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1月2日、ソウルのホテル新羅内を歩くイ・ゴンヒ会長。右は長女のプジン・ホテル新羅社長(右後ろ、メガネを掛けているのが長男のジェヨン・サムスン電子副会長)

韓国の経済界に衝撃が走った。5月10日、サムスングループトップに君臨する李健煕会長(72)が自宅で倒れて一時は心肺停止に。緊急手術により「容体は非常に安定している」(サムスン広報)というものの、健康に大きな不安を抱えていることをあらためて認識させた。

李会長に大きな病が襲ったのは、今回が初めてではない。1999年に肺がんの手術を受けた後、後遺症に苦しむなど、入退院を繰り返してきた経緯がある。

病院での容体は安定しているとはいえ、グループ経営陣は誰もが不安に感じているに違いない。「李健煕会長はいわば皇帝。李会長不在の経営を経営陣は最も嫌う」(韓国人の元サムスン社員)ためだ。

冷静だった株式市場

とはいえ株式市場は冷静だった。週明け12日の韓国証券市場では、サムスン電子の4%高をはじめサムスン生命、サムスン物産などグループ主要企業の株価は上昇。これには、ポスト李健煕体制の構築作業がある程度進行中であることが大きく作用したようだ。

実際に、短期的な経営には影響がないというのがもっぱらの説だ。最近は李会長の一人息子でサムスン電子副会長を務める李在鎔(イジェヨン)氏(46)と、同グループ未来戦略室の崔志成(チェジソン)副会長(63)の二人が経営方針を相談し、李会長が決裁を下してきた。「当面、このツートップ体制で乗り切るので、大きな経営方針の変化はないはずだ」(『中央日報エコノミスト』の咸承ミン(ハムスンミン)記者)。昨年下半期から進められてきたグループ会社再編と李会長一族による株式所有の単純化の作業が加速するが、これも既定方針どおりだ。

すでに目指すゴールも見えてきている。テーマパーク事業を行うサムスンエバーランド社を持ち株会社として中心に置き、李在鎔氏、長女でホテル新羅社長の李富眞(イプジン)氏(43)、二女でエバーランド社長の李叙顕(イソヒョン)氏(40)が支え合う形でグループ存続を図っていくとされている。

在鎔氏が電子関連や金融、富眞氏がホテルや建設、叙顕氏がファッション・アパレル、メディアと本人の得意分野を中心に事業再編がなされ、ポスト李健煕体制を安定的に運営していこうと動いているわけだ。後継体制の準備は着々と進んでいる。

(撮影:Getty Images =週刊東洋経済2014年5月24日号「ニュース最前線」より)

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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