沈没事故に揺れる韓国、与党は地方選で惨敗も セウォル号の事故で朴大統領は窮地に陥っている

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5月4日、事故対策本部を再訪した朴大統領(右)。遺族をはじめ国民の批判は収まらない

乗客乗員476人のうち、生存者はわずか174人。4月16日、韓国で発生したフェリー沈没事故は302人もの死亡、安否不明者を出す大惨事となった。

日増しに強まっているのが、朴槿恵(パククネ)大統領への批判だ。就任から1年、事故前には7割近い支持率を得ていた朴大統領だが、事故後は50%を下回る世論調査の結果が相次いで発表されている。

4月27日には事故対応の責任を取り、チョンフォンウォン首相が辞任を表明したが、逆に「無責任だ」との声がやまない。「事故対応が一段落つくまで」とチョン首相の辞表は大統領預かりとなった。

過去にも、大事故への対応の不手際が明らかになると、内閣改造や首相辞任で事態を収拾してきたのが韓国の現代史。だが今回は「犠牲者の多くが子どもたちという点で、これまでにないほど感情面での反発が大きくなっている」(韓国大統領府関係者)。

やり場のない怒り

実際、大人たちの不手際で100人を超す若者をみすみす死なせてしまったことのショックは極めて大きい。こんな事故が起きる社会をつくってしまった大人たちを許してほしい、という祈りにも似た気分が韓国社会に広がっている。「やり場のない怒りが、大統領に向かっているのかもしれない」(同)。

事故対応について「無限の責任を感じる」と発言するなど沈痛な表情を見せる朴大統領だが、さらに気の重くなる試練が待ち構えている。

韓国では6月4日、統一地方選挙の投票日を迎える。この選挙で、与党セヌリ党候補が惨敗するという予測が出始めたのだ。

韓国紙などが実施した世論調査では、ソウル市や仁川市、京畿道といった主要地域で、セヌリ党への反発が顕著に表れている。

たとえば大手紙・中央日報が5月1~5日に実施した調査では、ソウル市長選挙に立候補したセヌリ党の重鎮・鄭夢準(チョンモンジュン)候補の支持率は39.2%。現職で最大野党・新政治民主連合候補の朴元淳(パクウォンスン)市長は45.6%と強さを見せている。3月15日の調査では、両候補の差は0.4ポイントだったが、事故の影響を強く受けていることがわかる。

また、大手経済紙・毎日経済による5月3~5日の調査では、両候補の差は12.3ポイントと朴市長優勢。事故発生前と比べると、朴市長は2ポイント強支持率を上げた一方で、鄭候補は3ポイントほど下げている。

首都圏の仁川市長選挙、京畿道知事選挙でもセヌリ党候補に向かい風が吹き始めた。これまで接戦とされてきた仁川市長選では、現職の野党候補が4ポイント近く引き離した。京畿道知事選でも、野党候補が支持率を高めている。

さらに打撃なのは、朴大統領の地盤である韓国中部・忠清道などの地方において、与党内でも重要な支持基盤となってきた親朴派と呼ばれる首長・議員までもが、選挙で「惨敗する可能性が非常に高い」(韓国大手紙記者)ことだ。

韓国の大統領は1期5年で再選はない。民主化以降、直接選挙で選ばれた大統領は、任期半ばを過ぎると、ほぼ例外なくその影響力は弱まり、徐々にレイムダック化が進むのが常だ。

特に、任期中に行われる総選挙や地方選挙では、韓国国民のバランス感覚が働くためか、ただでさえ野党側が優勢になる傾向がある。これが大統領のレイムダック化を早めることになる。

ハンナラ党(現セヌリ党)代表時代、選挙のたびに劣勢を挽回し「選挙の女王」ともいわれた朴大統領。そんな手腕を復活させ、現状を打開できるだろうか。

(撮影:Yonhap/アフロ =週刊東洋経済2014年5月17日号〈5月12日発売〉核心リポート05)

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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