小6女児が「暴行罪」バレー監督と闘い続ける訳 母親が語る「恐怖の保護者会」と「娘のPTSD」

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事情をよく知る他県の指導者は言う。

「監督は昨年6月の平手打ちだけで、他(の暴力)はないと言い続けてきた。一度だけなら、いつか復帰できると考えたのだろう」

自分が起訴されるなど、夢にも思わなかったのではないか。

だが、母親が今年4月に被害届を出した際、警察は「以前も先生(監督)による暴力について親御さんから相談があった」と伝えている。積み重ねたものが綻びとなり、被害届の受理、起訴とつながったのかもしれない。

今回の「起訴」の重大な意味合い

体罰やスポーツ事故等、アスリート特有の問題を扱う弁護士の合田雄治郎さんは「少年スポーツにおける暴行の案件で、起訴になることは珍しい」と言う。

「詳しい事情がわからないのではっきりしたことは言えないが、今回の起訴は意義があると思われる。2013年に(当時の日本体育協会などが「暴力行為根絶宣言」を採択し)スポーツ界、教育界ともに暴力根絶に舵を切ったが、指導者の暴力事案はなかなかなくならない。特に少年スポーツは根強いと感じている。たとえ平手打ち一発でも、刑法の暴行罪に該当する違法行為であることを、指導者はもっと認識すべきだ」

日本スポーツ協会によると、同協会や多くの中央競技団体では、暴力をふるった指導者に対しライセンス資格に関わる処分はできるものの、資格に関わらない指導について制限することはできない。つまり、公式戦のベンチ等に入れなくても、資格に関わらない指導は可能になる。

暴力等を行った指導者について、法的にすべての指導を制限できないこと。日本スポーツ協会の処分であれば再教育のプログラムがあるものの、それ以外だと口頭注意で終わってしまうこと。この二つが、今後の大きな課題だろう。

起訴された翌6日、監督への取材を電話で試みたが「先生は今日はお休みです。取材はできません」と勤務する小学校の校長から断られた。校長は「体罰をしたのは昨年6月の一回だけ。それで行政処分を受け、教育委員会から口頭でも注意を受けている。私どもは終わったことという認識だ」と言う。被害女児がPTSDを発症したことは「知りません」と話した。

その後、筆者は文書でも質問状を送付したが、監督の担当弁護士経由で「(監督は)取材に応じることはできません」という返答があり、残念ながらその胸の内を聞くことはできなかった。

「自分のこころを崩壊させたことと、お母さんを泣かせたこと。その二つが許せない」

そう話す女児の夢は「バレーの選手になって、(元日本代表の)大山加奈さんのように、体罰をなくす活動をしたい」そうだ。

健気で立派だとは思う。だが、わずか13歳の子どもに背負わせる夢だろうか。スポーツにかかわる大人は、もっと本気で取り組むべきだ。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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