「外交官の行動制限」や「記者の追放」を含めて、さまざまな「相互主義」的政策は、結果として中国が行動を変えて望ましい形で落ち着く(「積極的相互主義」が「良い均衡」を生む)場合もあれば、中国の行動は変わらずアメリカの報復のみが追加される(「消極的相互主義」が「悪い均衡」を生む)場合もある。どちらになるかで「相互主義」の意味合いは大きく異なってくる。
両刃の剣
アメリカは中国との人の交流に関しても「相互主義」的に制限を課す動きを見せている。人的交流の過剰な制約は「悪い均衡」を招き、中国出身技術者によるアメリカの研究開発への貢献といったアメリカの強みを削ぐ恐れがある。また、アメリカで学び自由な空気を吸った中国の人々には、その価値観に影響を与えている可能性がある。中国による影響工作や知財窃取への対策を取りつつ、人的交流は継続し、アメリカの開放性を維持するほうがアメリカの国益に資する可能性がある。
相手が行動を変える可能性が低くても「相互主義」的政策を断固として実施すべき場合はある。「良い均衡」を達成できなければ失敗と断定とする必要もない。しかし、「相互主義」行使に際しては、他により良い手段はないか、当該手段が「良い均衡」を生む蓋然性はいかほどか、仮に「悪い均衡」に陥る場合にアメリカの重要な価値を毀損しないか、事前の吟味が重要であろう。
アメリカ外交官のジョージ・ケナンが1946年2月のモスクワからの長文電報(long telegram)で警鐘を鳴らしたように、日米を含む自由民主主義諸国はわれわれの社会に自信を持つことが重要である。最大の危険は中国(ケナンの時代はソ連)に対応する中でわれわれが中国(同ソ連)に似てきてしまうことである。
「相互主義」は、両刃の剣だ。それは、開かれた社会といったわれわれの基本的価値を毀損しないように気を付け、またマルチの枠組みへの悪影響にも留意しつつ、注意深く使用するのが望ましい武器であろう。「相互主義」は手段だ。それは「戦略」ではなく「価値」でもない。
(大矢伸/アジア・パシフィック・イニシアティブ上席研究員)
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