アメリカの中国への相互主義に危うさも潜む訳 わかりやすさと力強さは魅力だが両刃の剣にも

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実際に、アメリカは1930年に保護主義のスムート・ホーレイ法により関税を引き上げたが、その後、政策を転換。コーデル・ハル国務長官の下、「積極的相互主義」の考えに基づき1934年に互恵通商協定法(Reciprocal Tariff Act)が成立した。同法は、大統領に、関税を50%削減する権限、無条件最恵国待遇(第三者により有利な条件を供与する場合には相手国にもそれを供与するという取り決め)を付与する権限を与えた。結局、大恐慌後の国際的な保護主義の流れをアメリカのみで押しとどめることはできなかったが、「相互主義」と「最恵国待遇」に基づく自由貿易への動きは戦後のGATT体制として結実する。

しかし、「相互主義」には、自由化を進める「積極的相互主義」の側面とともに、同等の利益を供与しない相手に報復する「消極的相互主義」の側面も有する。報復としての関税引き上げを規定した1890年マッキンレー関税法は「消極的相互主義」の典型である。また1974年通商法301条も「消極的相互主義」の性格を持つ。「相互主義」は自由貿易体制成立の原動力にもなれば、保護主義を招き自由貿易体制を破壊する要因ともなる二面性を持つ。

自国の関税も引き上がり、保護主義が強まる場合も

「相互主義」の持つ消極的・破壊的側面を抑え込むために、先人は「最恵国待遇」も貿易政策の中核に据え、さらにGATT・WTOというマルチの枠組みで「相互主義」を生かす工夫をした。それは戦後の貿易拡大を通じた世界経済の成長という成果を生むが、「相互主義」が抱える消極的側面が消え去ったわけではなかった。このことは、ウルグアイラウンド以降のマルチでの貿易自由化の停滞、WTOに対する各国の不満、一方的貿易措置の頻発に表れている。

貿易分野から学べることは、「相互主義」の結果、自国も相手国も関税を引き下げて貿易の自由化が進展する場合がある(「積極的相互主義」)と同時に、「相互主義」が単なる報復となり、相手国の高い関税はそのままに自国の関税も引き上がり、保護主義が強まる場合もある(消極的相互主義)ということである。

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