「傍流」事業で不正発覚、乱気流突入の小糸工業
霧は濃くなるばかりだ。小糸工業は2月8日、航空機シートの設計・製造過程での検査記録の改ざんなどがあったとして、国土交通省から業務改善勧告を受けた。
内部告発で日本航空向けシートの耐火性試験で不正が発覚したのは昨年1月。6月以降、再び内部告発があり、同省が立ち入り検査を行った。その結果、世界の航空会社32社の約1000機に供給した15万席・134座席モデルで不正が行われた可能性があると判明。図面変更や試験結果の捏造など内容は多岐にわたり、小糸自身の調べでは少なくとも2003年ごろから行われていたという。
薄利で苦戦続き
同事業を始めたのは約40年前。もともと信号など公共関連の比率が高かったが、公共投資削減が鮮明になる中、航空向けの需要増を見込んで強化してきた。結果、ピーク時の2007年3月期は140億円まで拡大。前期でも売り上げの約2割を占める。
一方、赤字に陥る年も多く利益面では低空飛行が続いていた。航空機シートの品質基準は極めて高く、開発から製造・検査まで時間とコストがかかるうえ、納期も厳しい。小糸の世界シェアは5%と7番手。効率化を優先し、競合の欧米メーカーでは製品を絞り込む動きもあったが、同社は売り上げ増加に全力を傾けた。しかし、本流でない同事業への人材配置など体制整備が十分ではなく、納期に追われる中で不正が常態化していったようだ。
当然ながら、業績への影響は甚大。昨年2月以降、生産を一時中止して調査を進めており、多くの製品で納期が遅れている。今期は航空機シートの売上高が前期比半減、会社全体でも営業赤字に転落する見通し。現在、出荷済み製品データの確認や再試験などのために、通常の4倍近い700人以上が同事業に従事する。国交省は納期が迫った製品以外は出荷を停止し、使用中の製品調査と再検査を最優先するよう求めており、納期遅れがさらに増えかねない。09年4~12月期は航空会社からの損害賠償金請求で17億円の特別損失を計上。10年1~3月期も同程度かそれ以上に膨らむ可能性がある。
深刻なのは大規模かつ、長期にわたる不正発覚による信用失墜である。現状キャンセルの通告などはなく「今後は事業をスリム化して立て直したい」(経営管理本部の土屋和敬取締役)とする。ただ、どれだけ顧客を維持できるかは未知数だ。信号機など他事業へも影響が波及するおそれもある。26日までに国交省へ提出する予定の改善計画が最初の焦点となるが、再生に向けたハードルは高い。
(安西達也 撮影:大澤誠 =週刊東洋経済2010年2月27日号)
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