日本人は南極の国家的な重要性をわかってない 科学観測だけで処理不能な問題が起こってくる

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しかし、防衛庁から防衛省になり、自衛隊の事情も大きく変わったようです。最近目立つのは潤沢な予算です。予算規模を考えても、限られた隊員の中から毎年200名近い人を南極に派遣するのは確かに大変だろうとは想像できます。海上自衛隊の海外への派兵は南極ばかりではなくなりもしました。南極観測に対して、自衛隊内ではかつての魅力が薄れてきていたとしても、仕方のないことです。

きちんとした国家的方針がないと大損する

しかし文科省としては南極観測のためには、観測船の運用は不可欠です。ではどうすべきか。このレベルになると、やはりしっかりした国策があって、そのうえで、担当する部署を決め、南極に興味関心を持ち続け、地球人としての役割を果たすのが、本当の文明国だと私は考えます。

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外国の場合、チリの南極研究所は外務省に所属し、南極に関してはすべて外務省が所管しているようです。領土問題も絡み、陸軍、海軍、空軍も協力し、それぞれが南極に観測基地を有しています。もちろん研究者が運営する基地もあります。2000年前後の南極研究所の所長はチリの在日日本大使を務めた方でした。私が訪問するといつも懐かしそうに、皇室との会談を話題にしていました。

イギリスは植民地省が南極を担当していました。21世紀の今日の状況は知りませんが、少なくとも20世紀まではそうでした。南極条約の範囲外ではありますが、フォークランド諸島も植民地として維持されているのです。南極半島の領有権主張も同じです。

日本で南極に関する基本政策を考える場として、南極庁などという機関を求めるつもりはありませんが、せめて南極に関する共通認識が得られる常設の会義は「あってもよい」、あるいは「あるべき」と私は考えます。日本としてきちんとした国家的方針がないと、国際的には問題が起きたとき適切な処理や対応ができず大損をする可能性があります。

神沼 克伊 国立極地研究所・総合研究大学院大学名誉教授

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かみぬま かつただ / Katsutada Kaminuma

1937年神奈川県生まれ。固体地球物理学が専門。国立極地研究所ならびに総合研究大学院大学名誉教授。東京大学大学院理学研究科修了(理学博士)後に東京大学地震研究所に入所し、地震や火山噴火予知の研究に携わる。1966年の第八次南極観測隊に参加。1974年より国立極地研究所に移り、南極研究に携わる。2度の越冬を含め南極へは15回赴く。

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