FRBは今後「バブル退治」をする気があるのか 政府に財政支援要求の一方、難しいバブル管理

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

景気回復の過程でインフレ率が2%を上回って上昇したとしても雇用最大化が実現するまで金融緩和を維持する、いわゆるアベレージ・インフレ・ターゲット政策の導入である。もちろん、長期にわたる金融緩和が約束されるならば、それは資産価格にポジティブである。投資家も、量的緩和第3弾(QE3)の縮小懸念によって引き起こされた2013年5月の「テーパータントラム」(量的緩和縮小に伴う市場の動揺)、連続利上げ中の2018年10~12月期に起きた株価下落など、FEDの金融政策によって引き起こされた株価下落の恐怖から解放される。

では、もし資産価格が高騰した場合、FRBはどういった舵取りを選択するだろうか。結論を先取りすると、FRBはバブル退治を後回しにして、雇用最大化に専念すると思われる。それは彼らの源流にFEDビューという考え方があるからだ。

資産価格に対する中央銀行の政策スタンスについては、大きく分けて2つの考え方がある。一つはBISビュー、もう一つはFEDビューと呼ばれるものである。なお、BISは国際決済銀行、FEDはアメリカの中央銀行FRBの呼称。である。

まずBISビューは、資産バブルを未然に防止することを重視する立場をとり、バブルの兆候がみられた場合、速やかに予防的な金融引き締めを実施すべきとの考え方である。バブル期の過剰投資がその後の深刻かつ長期の不況を招くため、そうした代償を払うくらいなら、不人気政策である金融引き締めを早期に講じるべき、というわけだ。1980年代後半の日本のバブル、2000年代半ばの欧米住宅バブルが引き起こしたリーマンショック、これらの敗戦処理中にはBISビューがもてはやされ、バブルの温床を醸成した中央銀行を批判する声が増えたのも事実である。

雇用最大化にメドがつく前にバブル発生の可能性も

一方のFEDビューは、大まかにいえば「物価安定」の達成を目的とする金融政策の結果、資産価格が大幅な上昇を示したとしても、それを金融引き締めによって阻止する必要はないとの考え方である。

というのも資産バブルは、(1)それが発生しているときに客観的な判定ができない(2)バブル退治のために金融引き締めを実施したとしてもそれによって資産価格の急騰が収まるかわからない(3)引き締めの結果として生じる実体経済への悪影響が無視できない、というように多くの問題がある。またバブルを未然に防ぐことを重視する結果として失業が発生するくらいなら(4)バブルが崩壊してからその時々の状況にあった対策を講じた方が全体として望ましい政策運営ができる、というものである。

今回、FRBがアベレージ・インフレ・ターゲットを採用したのはインフレ率の上振れを許容するとともに、バブル発生のリスクには目をつぶって雇用最大化を優先するという決意の表れだろう。これこそがまさにFEDビューである。すでにロビンフッダーと呼ばれる個人投資家が過剰なリスクテイクに走るといったバブル的兆候が散見されているのは事実だが、こうしたFRBの姿勢に鑑みるとバブル退治に動いてくる可能性は低そうだ。この安心感が投資家の過大なリスクテイクを助長する。雇用最大化にメドがつく前に、資産バブルが発生する可能性があるだろう。

藤代 宏一 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ふじしろ こういち / Koichi Fujishiro

2005年第一生命保険入社。2010年内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間『経済財政白書』の執筆や、月例経済報告の作成を担当。その後、第一生命保険より転籍。2018年参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。2015年4月主任エコノミスト、2023年4月から現職。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当は金融市場全般。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事