DV加害者にやめさせる為に絶対欠かせない条件 価値観の変化と被害を自覚させ痛み受け入れる

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暴力によるDVの“再犯”も大きな問題だ。

「日本は加害者に対し、教育プログラムの受講を義務付けていないので、受講者はあくまで任意参加なんです。そのせいか、私たちがあまりに強固な姿勢を示すと、ドロップアウトしてしまう。そしてドロップアウトした後は暴力の“再犯率”が高くなるんです。ですから、私たちは絶対ドロップアウトさせないように、けれどもジェンダー視点を守り、被害者支援の一環として着実にやっていく。山のつり橋の上を揺れながら歩くような、すごく困難な道です」

日本の刑法は「法は家庭に入らず」を原則にしてきた。しかし、2000年に「児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)」が制定され、翌年には「DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)」ができた。これにより、「愛情」や「しつけ」などとして正当化されてきた家庭内の暴力がようやく、法規制による対象になったのだ。

もっとも、被害者の告訴がないと、DV加害者を法規制の対象にはできない。期限付きの保護命令(接近禁止命令、退去命令)だけ。それらの命令に違反した場合は刑事罰もあるが、加害者の変容を促す法的なアプローチは存在しないままだ。

信田さんは加害者向けプログラムを「DV教育プログラム・男性版」という名称にしている。「更生」という言葉は使っていない。

「『更正』は犯罪に対して使う言葉です。日本では、DVは犯罪化されていません。『更生』を使っていいのは法務省や警察だけであり、一民間団体が対外的に使ってはいけないと考え、あえて入れていないのです。もちろん、心の中では『更正』だと思っていますけど」

裁判所命令で加害者更生プログラムを受けさせる国も

欧米諸国では、「ダイバージョン・システム」と呼ばれる制度が導入されている。DVが比較的軽微な場合、裁判所の判断に基づき刑罰の代わりに加害者更生プログラムの受講を命じる仕組みだ。例えば、カナダでは、州によってDVを専門とした裁判所があるほどだ。

ただ、裁判所命令でプログラムを受講させることにも弱点はある、と信田さんは説明する。

「カナダのドロップアウト率は約40%です。受講しないと実刑になるから、嫌々来ているんですよね。一方、私たちは『動機付け面接』という理論に基づいて、本人の変わりたいという意志をきめ細かにサポートする方針を取っています。そのため、ドロップアウト率は1%にも満たない。まずは受講に来ていることをプラスに評価し、微細な変化をねぎらう。暴力は否定するが、人格は尊重します。そうしないと、モチベーションが続かないんです」

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