「SFのような世界」を日常にする最先端生命科学 コロナ禍を見通した科学者が描く「人類の未来」

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本書でも、トム・クルーズ氏の例を挙げて、昔の60歳は今の40歳、未来の70歳は今の40歳と同じになっていくと語りかけ、それはすでに始まっているという。本当だろうか? ついに「若返りの泉」が発見されたのだろうか?

著者であるデビッド・A・シンクレア博士は、ハーバード大学医学大学院で遺伝学の教授として終身在職権を得ており、老化を遅らせる遺伝子の研究などに長年にわたり携わっている、まさに老化研究の第一人者だ。「若返り」について話を聞くには、最高峰の人物であることは間違いないだろう。

本書でシンクレア博士は、「若くいること」や「若返り」について、あまたの類書の追随を許さないボリュームで、これまでの研究について解説している。

それだけでなく、人間が若く生き続けることは許されることなのかという、根源的、哲学的な視点さえ提供したうえで、実践的にどんなサプリメントを飲むべきかまで教えてくれるのである。

「がん」のように「老い」も治療可能?

人間が死ぬときとはどういうものか、誰からも教わっていないと著者は述べる。たしかに、私たちは死に対して見て見ぬふりをし、普段から考えないようにしている。死は暴力的で、恐ろしいものだが、決して避けられない自然なものであると、誰もが信じて疑わないからだ。

だが、かつては死に至ることが避けられないと思われていた病気も、いまでは治療可能なものとなりつつある。

例えば「がん」も、その昔は医師ができる限り腫瘍を取り除きつつも、患者に身辺整理をすすめる「仕方がないもの」だったという。

しかし今では、変異を起こすいわゆる「がん遺伝子」が発見され、この発見によりがん研究の枠組みは変わったのである。製薬会社の狙うべきターゲット(タンパク質)ができたのだ。こうして現在では、がんの多くは治療できる病気として認識されるようになってきた。

では「老い」は治療できるのだろうか? 著者によれば、ホモ・サピエンスつまりヒトは、手足はか細く、嗅覚はほかの動物に劣るという、進化から不幸なカードを配られた生き物だという。しかしながら、ヒトは比較的大きな脳を活用して文明を発展させ、不利な条件をはねのけて繁栄してきた。そのヒトがついに「老い」という病に挑戦しようというのだ。

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