「SFのような世界」を日常にする最先端生命科学 コロナ禍を見通した科学者が描く「人類の未来」

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では「老い」とは何だろうか? 詳しくは本書で確認していただきたいが、その典型的な特徴としては、DNAの損傷によってゲノムが不安定になる、染色体の末端を保護するテロメア(特徴的な反復配列をもつDNAとタンパク質からなる複合体)が短くなる、遺伝子スイッチのオンオフを調節するエピゲノムが変化する、などが挙げられる。 

著者はこれらの問題に対処すれば老化を遅らせることができると考えている。DNAが損傷して、エピゲノムが不安定になることが老化の原因だとし、それは「デジタルなDVDの表面に、アナログな傷がついた状態」のことだという。

そして、こうした老化の原因を突き止めることで、老化は治療できる病気と考えられるというのである。

山中氏が発見した「リセット・スイッチ」

本書では「老いの治療」にまつわる研究に関係する、何人もの日本人研究者の名前が出てくる。

その中の1人が、ノーベル生理学・医学賞を共同受賞している山中伸弥教授だ。山中氏が突き止めたものは、人の細胞を培養皿で初期化できる、いわば「リセット・スイッチ」であるという。これは老いの治療に重要な役割を果たす発見となった。

著者は、最初の体細胞リプログラミングは老化に伴う目の病気の分野で行われ、それが全身の若返りに応用されていくことを予想している。

もしこれが可能になれば、白髪が消え、頭の回転が速くなり、メガネがいらなくなる。つまり、若くなってしまうのである。老化研究のフロンティアは、細胞のリプログラミングだと考えられる。

一方で、2018年に中国の研究者が、遺伝子組み換えをした子ども(双子の女の子)を世界で初めてつくりだしたと発表したことを、記憶している方もいらっしゃるだろう。これを機に科学界では、ゲノム編集で「デザイナーベビー」を生み出すことの倫理的問題についての議論が起きた。「老化を治療する」ことについても、今まさに、活発な議論が必要とされているのではないだろうか?

著者は、老化の影響に耐性を持った遺伝子組み換え一家の出現さえをも予測する。そして、こうした未来を提示しながら、すでに人々の利用が進む、デジタルヘルスケアの分野についても言及している。

シンクレア博士は、MITからスピンアウトしたインサイドトラッカー社の顧問を務めており、この会社は検査サービスとして数十個の血液バイオマーカーの追跡(バイオトラッキング)を行っている。

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