土屋鞄のバッグが「高くても売れる」納得の理由 販売だけでなく「人生の伴走者」を目指していく

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「六本木店を営業して、通りがかりでブランドを認知される機会も増えたと感じています。そこで店舗では『革の質感』や『背負い心地』などを試していただく。サイズや重さなどのスペックはオンラインでも表示できますが、『意外に軽い』『チャックの出し入れがスムーズにできる』などの使い勝手を感じていただけるのは、店舗ならではです。

コロナ以前から、実店舗がブランドのショールームの位置づけになったのを感じています。お客さまの中には、当社商品を修理に出すタイミングで来店され、その際に別の商品も気になってご購入いただいた男性もおられました」(同)

昨秋に日本橋室町や渋谷に出店した当時は、外国人観光客にも訴求できたが、コロナ禍では当面期待できない。となれば、常連客づくりがより大切となるだろう。

「東京ミッドタウン」にはオフィス棟も連なる(2018年10月。筆者撮影)。

「ブランディング」をやりすぎると引かれる

土屋鞄が地道な「職人の工房」から現在の姿に成長したのは、この10年だ。近年は特に入学のかなり前から子ども用ランドセルを選ぶ「ラン活」、大人には「大人ランドセル」が起爆剤となった。ECにも注力し、コロナ以前から「オンライン販売が4割」だったという。

「ランドセルも、この数年は実店舗で背負ってみて、ご自宅で最終決定をし、ECで買われる方が増えています。大人向け商品にもその傾向があり、オンライン・オフラインそれぞれの特色を生かした訴求や交流に力を入れています」(広報担当)

現在の好調さにはブランディングの成果も大きい。ただし、多くの企業を取材して感じるのが「それをやり過ぎると世間は引く」ことだ。ここは、あえて指摘しておきたい。

ウィズコロナで「外出」に特別な意味が出てきた。筆者は今後、一部の行動は「昔の日本に近くなる」と思う。昭和の高度成長期には「一張羅」(いっちょうら。特別な衣服)という言葉もあり、人々は休日の百貨店には一張羅を着こんで出かけ、買い物や食事を楽しんだ。

リモートワーク中心で通勤しなくなるとバッグの利用頻度も減る。そうなれば消耗品から嗜好品に意識が変わるかもしれない。

こうして考えると、「1万円で買える時代に10万円支払っても欲しい」という意識は、お気に入りの自転車選びに似ている。修理してでも長く使いたいのは「人生」を投影するからだ。そうした消費者と真摯に淡々と向き合うことで、送り手の好感度も高まっていく。

高井 尚之 経済ジャーナリスト、経営コンサルタント

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たかい なおゆき / Naoyuki Takai

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆・講演多数。近著に『なぜ、人はスガキヤに行くとホッとするのか?』(プレジデント社)がある。

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