菅政権が避けられない「安全保障」の大問題 日本で敵基地攻撃能力議論が出てきた経緯
ただ、われわれ自衛隊の現場の立場から言わせていただくと、20世紀の終わりから自衛隊はすでに数々の国際的なオペレーションを経験してきました。現場の意識は、ようやく大綱が現実に追い付いてきたなというところだったかもしれません。
そして、2年前の2018年に改定された防衛大綱のキャッチフレーズは「多次元統合防衛力」です。これは前回の統合機動防衛力を改めたわけではなく、その上に宇宙、サイバー、電磁波といった3つの空間を設定し、そこに注力していくことを決定したものです。
多次元に力をつけている中国
この背景となったのはやはり中国で、最近、アメリカ国防省が議会に提出した報告書によれば、今や中国は世界最大級の海軍力を有しています。少なくとも物量的にわが国を凌駕してきていることは間違いなく、戦闘となった場合、宇宙空間、サイバー空間、電磁波の空間まで駆使して、防衛するしかない。従来の物理的な戦闘空間以外にも防衛力の視野を広げたため、多次元という表現になっているわけです。
実際、航空自衛隊に宇宙作戦隊が創設され、サイバーに関しては統合組織が作られています。また電磁波については、陸海空それぞれが組織を持っていますが、人的資源も予算も足りているとは言えないでしょう。
この防衛大綱改定の時点で、現在議論されている敵基地攻撃能力が想定されていたわけではありませんが、結果として敵基地攻撃能力には多次元の力が必要なのです。
敵基地攻撃能力については、今後、与野党間でもさまざまな議論が繰り広げられるでしょうが、実は争点の1つになりそうな憲法違反かどうかという1点において、すでに政府の公式見解が明らかになっていることをご存じでしょうか。
今をさかのぼること64年前の1956年2月、鳩山一郎首相は「ほかに手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは自衛の範囲に含まれ、可能である」と答弁されています。敵基地攻撃は憲法上クリアしていますが、実際の防衛政策として採用していなかったということです。
さて、今度、新たに誕生した菅政権では、基本的に安倍政権の政策を継承するとみられています。内政については、菅首相は最も得意とされるところだと思いますが、外交安保についても、日米同盟を中心として日本の防衛に注力していただきたいと思っております。
(構成:千波鴻一)
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