次世代アイサイトを「自動運転」と呼ばないワケ 理論上は可能でもスバルの目標はそこにない

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むろん、トヨタをはじめ、自動車メーカー各社も高度運転支援システムの開発でリアルワールドを重要視しているが、スバルの強みはティア1(部品サプライヤー)とティア2(要素部品サプライヤー)も巻き込んで、リアルワールドでの実験を繰り返すことだ。

だが、アイサイトの次世代化に対して、技術者たちも葛藤があった。

歴代アイサイトはすべて「ステレオカメラ」を採用してきた(筆者撮影)

アイサイトの特長は、人の目の仕組みを参考とした、2つのカメラを持つステレオカメラ方式を採用することだ。現行モデルでは、アイサイトver.3(第3世代)としている。

こうした中、柴田氏は「将来について(単眼カメラ使用も含めて)さまざまな可能性は否定しない」と話していた時期がある。背景にあったのは、半導体メーカーが主導する画像認識技術の発達や、ビッグデータビジネスへの事業拡大だ。

例えば、単眼カメラでも高精度な画像認識手法を開発した、アメリカ・インテル傘下のイスラエル・モービルアイの技術をもとに、広角・中距離・長距離、それぞれに適した単眼カメラを3連装するシステムを複数のサプライヤーが量産化している。モービルアイとの関係を断ち切ったテスラも、「モデル3」から自社開発で単眼カメラ3連装を採用した。

また、アメリカ・NVIDIA(エヌビディア)も単眼、またはステレオカメラにこだわらず、画像を通じて収集したビッグデータ管理・解析ビジネスの拡張を打ち出した。これは2020年8月に、メルセデス・ベンツとの包括的協業へと発展する。

アイサイトはステレオカメラであるべき

そうした中、スバル社内では協議を進め「やはり、(アイサイトの真骨頂である)ステレオカメラでやろう」と決断したのだと柴田氏は言う。

画像処理の技術についてはアメリカ・オンセミコンダクターと、画像認識についてはアメリカ・ザイリンクスと、スバルの実験・開発エンジニアが膝詰めの議論を始めた。次世代アイサイト全体のユニットは、スウェーデンのVeoneer(ヴィオニア)に依頼した。

Veoneer製のステレオカメラシステム(筆者撮影)

つまり、Ver.3までの日立オートモティブシステムズ製とはまったくの別物となったのだ。では、次世代アイサイトは今後、どのような方向に発展していくのだろうか。

2020年1月に、スバルが報道陣向けの技術ミーティングで公表した技術開発ロードマップでは、2020年の次世代アイサイト導入を起点に、2025年前後からそれ以降に、インフラとの連携を踏まえて、自動駐車・自動バレー駐車などの自動運転システムを導入すると明記される。

ただし、新型レヴォーグプロトタイプの関連資料には、「自動運転」という表記はどこにも見当たらない。

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