オンライン課金が、ジャーナリストを救う ネットでジャーナリズムが繁栄する日

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課金開始3年目を迎えたニューヨーク・タイムズも手応えを感じている。「2014年はいいスタートを切った。この数年で初めて、プリント広告とデジタル広告の両方が上昇に転じた」。タイムズの今年第1四半期は、久しぶりに堅調で、マーク・トンプソン社長兼最高経営責任者(CEO)は、こう語った。

新聞の部数減少で何年も減収だった販売収入も、オンライン版購読者の増加で増収に転じ、前年同期比2.1%増となった。

オンライン版購読者の数は、前年同期比18%増で79万9000人に上った。昨年ABC(発行部数の考査機関)を改名したアライアンス・フォー・オーディテド・メディア(AAM)によると、新聞とオンライン版を合わせた同紙の発行部数は189万7890部(平日、2013年時点、前年比18%増)。「紙離れ」はあるものの、オンライン版購読者の増加のおかげで伸びている。また、単純計算で、オンライン版購読者が、AAMが定める発行部数の4割超に迫る勢いだ。

日本でも課金はうまくいくのか

プレス・プラスの共同創業者ゴードン・クロビッツ氏によると、プレス・プラスの加入社は米国だけでなく欧州やアジアにも及び、現在は500社以上。今や新聞社のウェブサイトに来るビジターの5~10%が、新聞とオンライン両方の購読料を払っている。

「5~10%というと、数としては少ないが、非常に重要な意味がある。新聞社にとって、オンライン課金の分は、販売収入の中で純増分につながるし、特に課金を始めて2~3年の社が大きな成長をみせている」と「課金効果」を強調する。

オンライン版に課金をすることで得られる読者のデータも「ビッグデータ」の時代とあって、新聞社の「変革」にもつながる。

「フルアクセス(新聞とオンラインの購読者)の人が読む記事は、最も多いのがローカルニュース、2番目がスポーツ、3番目が教育。つまり、芸能人のゴシップや天気予報や交通情報ではなく、真の『ジャーナリズム』が必要なシリアスな記事が読まれている」

「つまり、編集者は、5~10%とはいえ、こうした重要な読者が何を読みたいか把握し、記事の出稿を考え、それに力を入れることで、さらにコアのフルアクセスの読者を獲得できる。読者は消費者。だから、価値があると思うものには、対価を支払いたいと思っている」

クロビッツ氏は、米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルの元幹部。同紙は、1996年のウェブサイトの立ち上げの際、無料にはせずに、新聞と同じ購読料を課した数少ない新聞で、同氏はデジタル事業をリードした。日本の事情にも通じており、「日本のローカル新聞は、ウェブサイトを無料で読めるところがほとんど。しかし、日本の読者は、米国に比べると、新聞に対して最も対価を支払っている。オンライン記事の価値を見出すことができれば、オンライン版の購読料を払ってくれるだろう」と話す。

クロビッツ氏は、オンライン版課金の潮流が、経済的に新聞社を救うだけでなく、ジャーナリズムを強化するという側面も重要視する。

「長い目でみれば、オンライン版の課金で、広告収入への依存度は下がり、ジャーナリストが広告主を気にする必要がなくなり、ジャーナリズムに対するより多くの権限を持たされ、解放されていくだろう。デジタル購読料は、ジャーナリストにとってはグッド・ニュースだ」

 

津山 恵子 ジャーナリスト

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つやま けいこ / Keiko Tsuyma

東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。2003年、ビジネスニュース特派員として、ニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、『AERA』に執筆した。米国の経済、政治について『AERA』ほか、「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」「HEAPS」に執筆。著書に『モバイルシフト 「スマホ×ソーシャル」ビジネス新戦略』(アスキーメディアワークス)など。X(旧ツイッター)はこちら

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