日本の「人質司法」は一体何がどう問題なのか 検察刷新会議で議論されている改革の焦点

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検察官の倫理とはどのようなものか。指宿教授は法曹専門雑誌『自由と正義』の2011年1月号で、その定義を「法の支配と人権を尊重する基本的な義務と責任」と示している。

大阪地検特捜部の証拠改ざん事件に関して設置された「検察の在り方検討会」の提言に基づき、検察庁は2011年9月、「検察の精神及び基本姿勢を示すもの」として、「検察の理念」を策定した。しかし、指宿教授は「倫理規定は行動指針でなければいけない」と言う。

──「検察の理念」を策定し、活用していると主張していると法務省は説明してきました。これについては?

「『検察の理念』は非常に抽象的です。考え方を示すのも大事ですが、具体的にどう行動するのかを盛り込まなければいけない。イギリスやアメリカなどには検察官に対する倫理規定があり、公表されています」

重要な意思決定のルールは検察官にも必要

──国際標準の倫理規定は、実務上の手続きを定めているのでしょうか。

「すべてではありませんが、そのとおりです。重要な意思決定についてのルールは、検察官にも必要です。保釈規定をどうするか、証拠の開示はどうか、訴追の決定に当たってどんな考慮をすべきか、報道機関との接触についてはどう考えるか。そういった内容です。検察官に求められる責務について、日本も参加している国際検察官協会(IAP)は具体的な基準を公表していますし、国連でも議論されています。しかし、日本ではまったく議論されていません」

──IAPの基準とは、具体的にどんな内容なのでしょうか。

「例えば、証拠開示については、開示のための法制度がなくても、倫理上、検察官には証拠開示義務があるとしています。IAP基準は、国連犯罪防止刑事司法会議が2008年に『訴追機関の廉潔性と能力の改善を通して法の支配を強化する』決議案を採択した際、添付資料として配付されています。国連もIAP基準を認めているということです」

「アメリカには全米法曹協会(ABA)にも法曹行動準則という基準があります。証拠開示に関しては、弁護士も検察官もこれを順守しなくてはなりません。この基準は2008年に改訂され、無罪の可能性を示す証拠は判決確定後も開示することが義務付けられました」

「日本では、こうした基準は検察庁が内部通達で規定しています。例えば、最高裁が2007年、取り調べ時の検察官作成のメモを証拠開示の対象にすると決定した後、検察庁は2008年7月と10月に内部通達を発し、『メモは内部文書』として廃棄を許容する指針を打ち出しました。国際基準に反しているし、この通達自体が公表されてない。指針は公表されることが重要なのに、情報公開請求をかけても指針の詳細は出てきません。ほかにどのようなものがあるのか、わからないのです」

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