「老害」が組織をダメにするという根本的誤解 高齢化に適応できない日本企業のジレンマ

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しかしこの理論には穴があります。日本の会社には当てはまりますが、アメリカの会社には当てはまらないのです。アメリカも、1945年の終戦後に高度経済成長がはじまり、自動車産業などが発展して、日本と同じように工業化が進みました。しかし、80年代、90年代になると、今度はITと金融がイノベーションを引き起こして、それが現在まで続いているわけです。

なぜアメリカで起こせたイノベーションが、日本で起こせなかったのか。ここには、からくりがあります。アメリカは会社が潰れるんです。僕の専門のIT分野で言えば、1950年代にあったアメリカの企業で、現在でも残っているのはIBMだけ。それ以外はすべて倒産しているのです。

一方、日本で1950年代のメーカーと言えば、富士通、日立、NEC、日本電信電話公社です。すべて現在も生き残っていて、相変わらず大手ですよね。会社が大きくなって生き残りすぎたから、イノベーションが起こせないのではないかという面が見えてくるのです。

事実、社員の平均年齢は無関係だと言える証左もあります。パナソニックや東芝から大量の中年の技術者が流出しましたが、その人たちは中国企業や、アイリスオーヤマのような企業に移っていきました。そしてそこで、新たな製品をどんどん生み出しているんですよ。さらに、シャープだって、鴻海傘下に入ってから復活しています。

結局、社員が年をとったからダメになったのではなく、会社の組織そのものが古くなって腐ってしまったということなんですよね。つまり、会社組織そのものが新陳代謝をしていれば、50代60代の技術者でも活躍する場合がいくらでもあるということです。

極端な話ですが、もしも、いま日本の大企業がどんどん潰れて、そこから流出した優秀な中高年の社員がスタートアップに移ったならば、そこでは普通に活躍するという現象が起きるのではないでしょうか。構造さえ変えることができれば、高齢者が長く活躍しつづける社会はつくりうるのではないか、僕はそう考えています。

日本のジレンマ:終身雇用+長寿

ここには雇用形態も絡んでいます。雇用には、仕事に対して人を割り当てる「ジョブ型」と、人に対して仕事を割り当てる「メンバーシップ型」がありますが、日本は後者が主流で、一度その会社に就社すれば、ずっと居続けるという構造になっています。

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