バイデン政権なら米中そろって「TPP参加」も カルダー教授に聞く「新冷戦」時代の日米中関係

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――中国と対抗するうえで、日本は米英カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国によるインテリジェンス(諜報)協力、いわゆるファイブアイズに加入するべきだという議論があります。

実現できるどうかはわからない。できないとは言わないが、2つの課題がある。1つは日本の提供する情報がどれだけ5カ国に貢献できるか。もう1つはグローバルなレベルでの信頼が築けるかだ。

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あくまでアウトサイダーとして自分の印象を話すと、日本側がどこまで機密情報を管理できるのか、協力関係を築くうえでアメリカ側には常に不安があった。その点では特定秘密保護法の制定によって進歩があったとみている。また現場での個人的な人脈、信頼感が高まっているのは確かだ。

中国の台頭への対応はアメリカだけでなく世界の情報機関にとって重要だ。経済と軍事、戦略問題の結びつきが強まっているなかで、東アジアのインテリジェンスで日本が貢献できるのはよくわかる。さらにグローバルなレベルでファイブアイズの5カ国と日本の利害がどのくらい一致するのか。ここが問われるだろう。

バイデンは伝統的な日米同盟を重視

――日本では「敵基地攻撃論」が関心を集めていますが、バイデン氏の日米同盟観は。

バイデン氏はアメリカが抑止力を提供するという伝統的な日米同盟のあり方を重視しており、日本は自分で自分を守れという発想ではない。朝鮮半島でも伝統的な米韓関係のもとでアメリカ陸軍が韓国で抑止力となり、北朝鮮ににらみをきかせることを重視する。バイデン氏の外交顧問であるトニー・ブリンケン氏はオバマ政権で国務副長官を務めたが、彼は日米韓関係に詳しく、日韓関係の修復に問題意識を持っている。とくに最近の韓国は中国に接近している感じがあり、そこにはバイデン氏らも警戒感を持つだろう。

――日本に対してトランプ政権は駐留経費の負担引き上げを要求してきましたが、「バイデン政権」になっても同じでしょうか。

アメリカ軍人の給与を別にすれば日本は駐留経費の7~8割を負担しているはずだ。さらに給与まで払ったら、アメリカ軍は傭兵になってしまう。これ以上の引き上げは現実的でないし、それを主張すれば日本から反発も出る。ばかばかしい話だ。

ただ、日本側は新たな施設の建設には熱心だが、基地のメンテナンスなどにはあまり関心を持たない傾向がある。国内の政治的な必要性があるのはわかるが、これはアメリカからみると不合理だ。そこはバイデン政権になっても指摘するのではないか。

日本の思いやり予算は在日アメリカ軍だけにしか使われないが、日本政府がインド太平洋地域の安全保障のためのファンドを作るのも1つの考え方だ。駐留経費負担だけを増やすより日本のためになるだろう。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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