バイデン政権なら米中そろって「TPP参加」も カルダー教授に聞く「新冷戦」時代の日米中関係

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――副大統領候補のカマラ・ハリス氏は、2024年の大統領候補として期待されています。彼女の国際社会観は?

基本的にプラグマティック(実利主義的)だろう。彼女は外交専門家でないし、独自のスタッフがあまりいない。バイデン政権ができたとしても、初期段階ではハリスの外交への影響力はないだろう。考えられるのは、インドとの関係で存在感を発揮するのではないかということだ。母方の家族はベンガル湾に面するインドのチェンナイの出身だ。

Kent E. Calder/ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)副学長。ハーバード大学でライシャワー教授の指導の下、博士号を取得。プリンストン大学教授や米国戦略国際問題研究所(CSIS)日本部長、駐日米国大使特別補佐官などを歴任。旭日中綬章を受章。近著『スーパー大陸』(潮出版社)は、英フィナンシャル・タイムズ紙の「2019年のベスト書籍(政治部門)」に選ばれた(撮影:尾形文繁)

いまインド洋の戦略的な重要性は増している。トランプ政権のもとで、「クアッド(日米、オーストラリア、インドの4カ国による安全保障協力。2007年に当時の安倍晋三首相が提唱)」が復活した。トランプ政権の初期段階でオーストラリアはあまり協力的ではなかったが、現在のモリソン政権になって積極的になった。インドと中国の関係悪化により、クアッドは本格的に動き出している。オーストラリアとインドの防衛協力も本格化してきた。

アメリカの国内政治でもインド系の存在感が増している。インド系アメリカ人には医師、薬剤師や弁護士、会計士などの専門職が多く、平均収入が白人より高い。アメリカ社会でこれから影響力を強めるだろう。

トランプ氏が落選した場合、共和党が2024年の大統領候補にペンス副大統領を選ぶとは思えない。ハリス氏が民主党から立つなら、共和党では同じインド系アメリカ人女性のニッキー・ヘイリー元国連大使が有力候補になると思う。

中国に「いいとこどり」はさせない

――トランプ政権の初仕事は、TPP(環太平洋経済連携協定)からの脱退でした。バイデン政権となればTPPへの復帰はありうるでしょうか?

その可能性はある。そもそもオバマ政権の外交構想は自由貿易協定と同盟を深く結びつけて、アメリカに近い国と全面的な協力関係を築くことにあった。日本や欧州とその体制を構築してから中国と向き合うという考え方だ。

一方の中国でもTPP加入への検討はされている。中国のハト派、たとえば中国・グローバル化研究センター(全球化智庫)の会長で国務院参事の王輝耀氏などは、中国はTPPに入るべきだと言っている。個人的には、米中がともにTPPに加入して協力の枠組みをつくる可能性はありうると思う。

しかしアメリカにはWTO加盟で中国に「いいとこどり」をされたという苦い経験があり、バイデン陣営もそれはわかっている。まずアメリカは日本をはじめ(アメリカの脱退後に成立した)TPP11を構成する国々としっかり話すべきだと思う。さらに欧州との関係も再構築したうえで、中国と話すべきだ。

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