確かに、「ただの2%か、平均2%かは大きな違い」と言われてきたように、専門的には以前からかなり有名な論点だった。例えば1%が5年続いてしまったら、次の5年は3%を続けるのでちょうどよいということであるから、低インフレの時期には、非常に緩和的なスタンスがより強まるということになる。
しかし、今回の発表は、コロナショック対応で、金利引き下げの余地がすでになく、さらに拡大するために、いわゆるフォワードガイダンスと呼ばれる、将来の金融緩和の継続を今約束してしまうことで、足元の緩和効果を強めようとすることのさらなる強化を狙った、という「ただの」あるいは「普通の」「今だけを」考えた金融緩和政策に過ぎないからだ。10年先をまったく考えていないのだ。
さらに、この平均2%の意味は、インフレ率が2%を超えても緩和を続けることを約束したものだが、日銀のおぞましいリフレ政策に限りなく近づいてしまったという欠陥がある。現在、インフレになると思っている人は一部にしかいない。多数派は2%も達成できないと思っている。そうなると、2%超えは永遠に達成できないことになり、金融緩和、実質ゼロ金利はアメリカでも永遠に続くことになる。これは、大失態だ。
今回のパウエル議長の講演では、明示的に、どこかの国のようにデフレにしてしまって、ゼロ金利制約で長期に苦しむ罠に陥らないようにする、と宣言しているが、実際にやっていることは、日銀と同じく、永遠に金融引き締めができないように、自らを追い込んでしまったのだ。それなのに「日本化を避けるため」、と宣言しているところが、愚かであるだけでなく、恥ずかしく、格好悪いのだ。
日本化を避けるはずが、自らを縛ったパウエル議長
そして、1番の問題は、冒頭の第2点である。もしアメリカで政権交代が起こり、民主党の大統領が誕生するどころか、上院までも逆転して民主党が上下両院を支配することになると、コロナショックを理由として、財政支出は大幅にさらに拡大することになるだろう。そして、金持ちに対しては増税を行うだろうから、資産からのキャピタルゲインからの高額消費、インフレという道もないだろう。
となると、異常な金融緩和を継続せざるをえない状況に、中央銀行が自らを追い込んだ中で、財政拡張、国債増発となり、まさに日本と同様に、財政ファイナンスのリスクが出てくる。
しかし、アメリカの国債市場は、大半が国内で消化される日本国債市場とは異なる。グローバルに多様化した投資家に支えられている反面、投資家の目利きは厳しいから、リスクが高まる可能性がある。つまり、コロナショック、さらには政治権力の交代によって大きな困難にもともと直面する可能性が高いことが見えているにもかかわらず、自らの手を縛ってしまったのが、ジャクソンホールでのパウエル講演だったのだ。
これはパウエル議長のコンプレックス、すなわち市場を支配できていないという意識が大きく影響したのではないか。イエレン前議長のような学者独特の鈍感力によるカリスマもない実務家パウエル議長は、市場に、トランプ大統領に、コロナショックに、すべてに愛想をふりまいて、自らを追い込んでしまったのである。
そこへいくと、日本の状況はましだ。菅義偉総理が見えてきたため、アベノミクスはそのままだろう。いやむしろ、株式市場重視は、安倍首相の影響ではなく、菅氏の強い意向だったから、今後は、さらに株式相場政治が続くだろう。だから、日本はむしろ波乱はない。
しかし、それは安全なことか、というと、逆である。リスクを膨らませて、さらに「安全に」先送りするだけだから、日本の目先の波乱はなくなったが、先の国債バブル崩壊、財政破綻はより確実になっただろう。ポイントは、黒田東彦総裁交代のタイミングである2023年だ。そのとき議長は誰に代わるか、そのときに首相がだれか、ということだ。とりあえず短期的には、日本は安心して、3年後に来るかもしれない破綻に備えることができる。
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