日米「2つのサプライズ」で株価はどうなるのか FOMCは上昇要因で、安倍首相辞任は下落要因!?

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もう1つの「サプライズ」は、安倍首相が辞意を固めたとの報道が28日(金)の場中に流れ、同日午後5時からの記者会見で、首相本人の口から、体調不良により首相の座を降りるとの意向が正式に表明されたことだった。

かなり首相の体調が悪いのではないか、という観測は、すでにマスコミの「ネタ」にされていたため、辞任表明は完全な驚きとは言い難い。

それでも、もともと予定されていた会見は「コロナ禍への追加対応策について述べる場」であって、その際に首相自身の健康について「も」説明を行なう、という事前の見込みであった。

そのため、この日に辞任表明した、というのは、意外感があった。実際のところ、首相が自身で辞意を固めたのは24日(月)だったと報じられており、閣内、党内での表明も直前であった模様だ。

今後は、9月1日に自民党総裁の選出方法(緊急事態として、両院議員総会、つまり衆参の国会議員中心の投票によるか、それとも通常通り、国会議員でない自民党員を広く含めた投票になるか)が決定され、同月15日辺りに総裁が決まるとの見込みだ。その後に臨時国会が招集され、総理大臣が選出されることとなる。首相の臨時代行は設けられず、安倍首相が新首相の決定直前まで現職務を務める方針だ。

誰が首相になっても「一発逆転」はない

筆者個人としては、新首相による外交・安全保障政策が、米中対立が激化する渦中でもあり、関心が高い。ただ、筆者は、経済・市場分析の専門家に過ぎないため、そうした分野についてここで言及することは避けたい(やはり居酒屋での酔客の戯言としては、よいとしても)。

新内閣の経済政策という点では、足元のコロナ禍による景気への打撃を緩和することは必須であり、必要であれば現在の諸策を延長する、あるいは新しい策を追加する、という対応が、誰が首相になっても打ち出されるだろう。

ただし一方で、誰もが驚くような一発逆転の景気回復策があるはずもない。じわじわとした景気の持ち直しが続き、コロナ禍前の経済水準に回復することを、適切な策を都度繰り出しながらも、じっと待つ以外にはないだろう。金融政策についても、引き続き日銀の黒田東彦総裁が日銀を率いるなか、特に政策変更はないだろう。

国内株式市況としては、首相交代は決して好材料ではない。次の首相が誰になるにせよ、それが決定するまでは、不透明要因であるからだ。もちろん、株価をどんどん押し下げていくような材料でもない。

加えて、アベノミクスが始まった当初のような、政府の経済政策に対する期待がかなり盛り上がり、それが株価を押し上げていた局面とは異なり、海外投資家を含めた市場参加者の間に、現在は経済政策に向けての期待は強くはない。ということは、逆に失望の余地も小さいということだ。

このため、アメリカの株価に比べ、日本株の上値が政治的な不透明感により抑え込まれることが、短期的に懸念される。それでも、日米の株価乖離が広がり続ける、という状況までには、事態は悪化しないだろう。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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