たとえばイギリスでは、医師が薬を処方するだけでなく、「社会とのつながりを処方する」という意味合いで、「社会的処方」と呼ばれる取り組みが広がっています。医師(かかりつけ医)が、福祉や地域社会の各部門と連携をとって、病気の治療だけでなく、「患者一人ひとりが生きるために大切にしていること」に基づき、健康と福祉に関する総合的なアプローチを導き出す取り組みです。
日本でも、福祉の一環である介護保険制度で使われる主治医の意見書に生活面の支援の必要性について書く欄があるなど、医療と福祉の連携がとられている分野もあります。そうしたアプローチを更に広げていくことが必要です。「明るい社会保障改革推進議員連盟」の報告書においても、「かかりつけ医等が患者の社会生活面の課題にも目を向け、地域社会におけるさまざまな支援へと繋げる取り組みとして、社会的処方の取り組みを推進すべき」という指摘が盛り込まれています。
社会的処方という考え方に基づき、日本の場合には、医師・保険者・地域社会の様々なNPOなどが連携する取り組みに繋げていくことで、「その人のためにとって何が大切かを把握し、地域の中で必要な繋がりをつくり、その人の状況や症状が改善するようにしていく」という社会的システムを作り上げていきたいと思います。
画一的な制度化への反発にどう対応するか
近藤:高い志をもって患者さんの生活面まで配慮した診療を行っている医療機関は多々ありますね。でも全国的に十分ではないことは確かだと思います。「社会的処方」のような言葉によって、全国へとスケールアップしていくことが期待されます。
とはいえ、地域によって、使える資源や連携のしくみも多様です。画一的に制度化すれば、今まで地域での活動を頑張ってきた福祉や医療の関係者からの反発もありそうです。
加藤:まずはそれぞれの地域において、モデル事業のような形で推進していく中で、社会的処方の活動が自然と広がっていくことを目指していきたいです。そして、懸念や反対意見にはしっかり耳を傾けながら、好事例から学び、より良い取り組みをうまく後押していくことを通じて、「社会的処方」の具体的なやり方に対する合意形成を図っていくことが大事であると考えます。
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