金価格は「第3のエンジン」点火で再度急騰する いったん落ち着いても、いずれ上昇の可能性

拡大
縮小

もちろん足元では景気の大幅な落ち込みに伴う需要低迷によって、インフレの兆候はほとんど見られていない。しかし、アメリカ政府がかつてない規模の景気支援策を打ち出し、さら現在さらなる支援策をまとめ上げようとしている状況下で、財政支出の拡大によって政府の赤字も膨らむばかりだ。

この財政赤字は同国の国債の大量発行によって賄われており、本来であれば金利の上昇を促すところなのだが、一方ではそのほとんどがFRBの量的緩和策によって買い支えられており、金利は歴史的な低水準に抑えられたままになっている。

一方、企業は新型コロナウイルスの感染拡大防止のためのコスト増に直面しており、今後はこうしたコスト上昇を販売価格に転嫁せざるを得なくなるはずだ。そうした動きは小売店から工場まで、ありとあらゆるところで見られるようになり、インフレ圧力となって表れてくるのではないか。

1トロイオンス=2300~2400ドルの局面も

いずれ、どこかの時点で人々は新型コロナ感染の抑え込みに成功するのだろうし、ワクチンや治療薬の開発などによって人々が安心して外出できるようになれば、需要も一気に回復してくると思われる。

そうしたなかで、インフレ圧力が高まる可能性は、極まりそうだ。主要国の経済はここ何十年もの間、インフレとは無縁の世界にあり、インフレヘッジとしての金に対する需要に注目が集まることはなかった。だが、この先そうした状況が一変、インフレヘッジとしての需要が金相場の新たな押し上げ要因となることも考えられよう。

このまま金価格がさらに上昇基調を強めることがあるとすれば、このインフレヘッジ需要という第3のエンジンに点火した時となるのではないか。その際には、現在の価格からさらに400~500ドル、つまり1トロイオンス=2300~2400ドルまで上昇が見られても、何ら不思議ではない。

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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