JR西の豪華寝台「瑞風」、長すぎる運休のナゾ 検査含め1年休み、沿線の人々と乗務員の思いは

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瑞風が東浜駅に停まるのは平日の午前中のため、おもてなしをするメンバーは高齢者がどうしても多くなる。毎週のように立ち寄る瑞風の歓迎は体力的な負担が大きそうだが、なぜ続けてこられたのだろうか。

浜口会長は「『金曜日は瑞風』と生きがいに思っている人もいる。(住民同士で)顔を合わせられるし、会話ができるのが楽しい、とみんな言っている。こうしたことは瑞風が来る前はなかった」と語る。瑞風を出迎えることは、乗客に喜んでもらうためばかりではなく、沿線地域の絆を深めるきっかけ作りになっていることがわかる。

瑞風の手島秀和列車長(記者撮影)

このように瑞風の立ち寄りを待ち望む人々がいれば、拠点となる大阪には再開の準備を進める乗務員たちがいる。手島秀和さんは瑞風に乗務するクルーを束ねる、6人の列車長のうちの1人。「急にコロナで運休になって、お客さまがどんなに残念な思いをしているか考えると言葉がなかった」と半年前を振り返る。

運行再開へのクルーの思い

手島さんはJR西日本に入社後、10年ほど車掌を務め、大阪総合指令所で指令員をしていたときに瑞風列車長の社内公募に手を挙げた。車掌時代には急行「銀河」や「きたぐに」、特急「トワイライトエクスプレス」にも乗務したそうだ。コロナ禍での在宅勤務では、経験の少ない列車長にテレビ会議システムを通じて教育。「本来は車内での指導が基本なので、どうやって臨場感を出すのかが難しかった」という。

サービスクルーの尾﨑勲さん(左)とキッチンクルーの川並信重さん(記者撮影)

接客を担当するサービスクルー、ジェイアール西日本フードサービスネットの尾﨑勲料飲支配人はホテル業界の出身。「お客さまとの距離が近いのと、接する時間が長いことに瑞風らしさがあった」と指摘する。

「揺れたり狭かったりする車内でも、提供する料理は地上のレストランと変わらないのが瑞風だと思っている」と語るのは、キッチンクルーの川並信重料理長。ただ、通常のレストランとは異なるのが「短期間に同じお客さまに何度も料理を提供する。立ち寄り観光の見送りの際など接点が多い」といった点だ。

クルーが考える瑞風の魅力の1つが乗客との“距離の近さ”にあることがうかがえる。旅の終わりには別れに涙する人もいるという。手島列車長は「鉄道会社が提供する『安全・安心』は変わらないが、密にならない形で、お客さまにどう感動してもらうか」と頭を悩ませる。デビュー前は、列車内で最高級のおもてなしを実現するために関係者が試行錯誤した。3周年をコロナ禍で迎えた瑞風は、また新たな課題を与えられて再出発に備えることになる。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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