また、器物損壊罪に当たらない程度に車両に落書きや張り紙をする場合でも、たとえば「故障」などという紙を貼って職員を混乱させれば、偽計業務妨害罪(刑法第233条・3年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立することも考えられる。
これに関して、その昔、下津井電鉄(岡山県・現廃止)や津軽鉄道(青森県)で、落書き列車が走ったことがあった。また、国鉄広尾線(北海道)の幸福駅では訪れた人の定期券などで駅舎内の壁が埋め尽くされたことがあった。これはされる側が公認(黙認)をしていたので、もちろん問題はない(むしろ落書きや貼り紙で車両や駅舎の価値が上がった)。
次は置き石の例を見ていきたい。線路への置き石は古典的に過ぎると思っていたが、意外と現代においても行われるいたずら、いや、犯罪である。石どころではないものが線路に置かれたりすることもある。
小さい石なら跳ね飛ばして大きな問題にはならないかもしれないが(もちろんそれも絶対だめ)、大きい石なら列車が停車することになる。その場合、石という障害物を見せて列車運行業務を抑圧することになるので、威力業務妨害罪(刑法第234条・3年以下の懲役または50万円以下の罰金)が成立する。
さらに、置き石などで列車の往来に危険を及ぼしたということで電汽車往来危険罪(刑法第125条第1項・2年以上の懲役)、車両が損壊すれば電汽車転覆等罪(刑法第127条・無期又は3年以上の懲役、人を死なせれば死刑または無期懲役)、器物損壊罪も成立する。
置き石は実刑判決も
実際に裁判にかけられて処罰された例もある。たとえば、静岡地方裁判所沼津支部の2016年6月24日判決。沼津市内の東海道本線上り線に約17.2kgのコンクリート片を置き、早朝に走行してきた寝台特急列車に衝突させ、列車を34分停車させたというものである。
ほかにも、吾妻線金島駅近くのポイントに石を挟んで列車運行を妨害したという事件(前橋地方裁判所2017年9月26日判決)がある。いずれも、威力業務妨害罪と電汽車往来危険罪に問われている。また、予讃線の線路に金属製のボンベ(約18kg)を置いて特急列車に衝突させ、ブレーキ配管やATS装置を破損させるなどした事件では電汽車往来危険罪、電汽車転覆等罪と器物損壊罪が成立している(高松地方裁判所2018年2月7日判決)。
そしてこれら3件とも実刑になった。東海道本線の事件では懲役1年8カ月、吾妻線の事件では懲役1年2カ月(執行猶予中の行為であったことも考慮されたと思われる)、予讃線の事件では実に懲役3年2カ月である。
さらにいえば、跳ね飛んだ石が想定外に飛んで人に当たってケガをさせたり死亡させたりしたら(重)過失致死傷罪に該当しかねない(刑法第209条第1項・30万円以下の罰金または科料、同第211条・5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金)。こうしてみると、置き石というものは、本来子どもが戯れにやるような行為ではない。ましてや分別あるはずの大人がやっていい行為ではない。
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