「政権奪還」狙うバイデン=ハリスの強みと弱み 「対中・増税・環境」に注目で市場大荒れ予想も

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金融市場の専門家はどう見ているのか。SMBC日興証券の金融財政アナリスト、末澤豪謙氏は、「バイデン=ハリス陣営は2016年の大統領選でクリントン氏が取り逃した黒人層、リベラル派、ラストベルトの白人ブルーカラーの票に加え、アジア系やヒスパニック系など新興マイノリティーの票も取り込む期待が持てる。ハリス氏はリベラル派の中でも中道寄りであり、無党派層や共和党穏健派への訴求力もある」と指摘する。

また、「ハリス氏はカリフォルニア州司法長官時代にデラウェア州司法長官を務めていたバイデン氏の長男ボー・バイデン氏(2015年に脳腫瘍のため46歳で死去)と親交があり、バイデン氏の信頼はもともと厚い。民主党予備選でのTV討論会でハリス氏がバイデン氏を攻撃し、バイデン氏の妻ジル氏を怒らせたが、そのわだかまりも今は解消したようだ」と話す。

増税案や開票遅延で金融市場は大荒れも

一方、選挙戦の金融市場に対する影響について末澤氏は、「10月から11月にかけて市場は相当荒れるだろう」と警鐘を鳴らす。

「要因は2つある。1つは、バイデン陣営がこのまま有利に戦いを進めるとしても、彼らはリベラル層の支持を固めようとして、左寄りの急進的な社会保障政策や富裕層向け増税案を出してくる可能性がある。それが金融市場にショックを与えかねない」

民主党は現状、大統領選と同時に行われる連邦議会選挙でも、下院の過半数維持が確実視されるだけでなく、上院で過半数を奪還する可能性がある。上下両院も制すれば民主党の政策が通りやすくなるため、政策の中身への警戒感が高まっている。

「もう1つは、2000年の大統領選の時のように、開票集計の大混乱が起こる可能性が高いためだ。今回はコロナの影響で郵便投票が急増することになるが、コストカットの影響もあって郵政公社の対応は追いついていない。特にスイングステート(接戦州)の集計に時間がかかった挙句、訴訟で再集計という事態もありうる」(末澤氏)。

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2000年当時は勝敗の確定が12月12日まで大幅に遅れることになったが、今回も同等かそれ以上の大混乱が生じる恐れがあると末澤氏は指摘する。

増税案に関しては、法人税引き上げや富裕層の最高税率引き上げに加え、キャピタルゲイン(資産譲渡益)課税の引き上げもありうると見る。「社会保障政策を拡充すればするほどセットで増税も必要となってくるため、追加の公約が増えれば増税策も増えてくるだろう」(同)。

バイデン陣営は目玉の政策としてクリーンエネルギー推進を打ち出しており、当初は10年間で1.7兆ドルとしていた投資額を4年間で2兆ドルへと前倒しし、かつ増額した。「この政策は無党派層にも訴求する効果があるが、バイデン当選で石油・ガス関連株が暴落するリスクがある。一方、クリーンエネルギーの関連株など新たに買われるところもあるだろう」(同)。

民主党内部では穏健派と急進左派を統合する必要性から「左傾化」が大きな流れとなっており、バイデン氏自身の政策も一段と左寄りにシフトする可能性がある。バイデン政権が誕生した場合、急進左派のエリザベス・ウォーレン上院議員が財務長官になるのではとの憶測も一部にある。トランプ氏側としては、「左に乗っ取られたバイデン陣営」というレッテルを貼ることで有権者の警戒感をあおる作戦だ。

いずれにせよ、11月3日の投票日前後は世界のマーケットにとっても波乱含みで目の離せない局面となるのは間違いない。

中村 稔 東洋経済 編集委員
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