それだけではない。日本人に最も理解しがたい(あるいは心情的に許容できない)のは、日本経済が大きな痛手を負ってしまったことだ。
言うまでもないことだが、今回の経済危機は、アメリカの金融機関が引き起こした。高いリスクの投資を行い、それが巨額の損失を生んだ。いくつかの金融機関は破綻し、いくつかは吸収合併された。だからアメリカの金融業が全体として破綻したというなら話はわかる。しかし、実際にはそうならず、生き残った金融機関が驚異的な成長をしているのだ。
それに対して日本の製造業はどうか?
アメリカの金融機関のような無謀な投資には手を出さず、地道なものづくりに励んできた。それにもかかわらず、破滅的な影響を受けた。エコカー購入やエコポイントなどの政府支援がなされているにもかかわらず、07年ごろまでのレベルと比較すると、生産水準は8割程度に落ち込んだままである。利益に至っては、07年ごろの7分の1程度に落ち込んでしまった。いったい、どうしてこんなことになるのか?
日本にない産業が未来をリードする
もちろん最近の経済事象の中に、日本人にも理解できる現象はある。GMなどアメリカ自動車会社の破綻は、その典型だ。退職者に対する過剰な手当を見直せず、技術開発に熱心でなかったから破綻した。これは実によくわかる。
中国の成長も理解できる。そもそも農業国が工業化する過程で急速に成長するのは、しごく当然だ(日本も1950年代から60年代にかけてそうした成長を経験した)。経済危機に対応して強力な拡大政策を発動できたのも、一党独裁下の強い中央政府なら不思議ではない。
これらの現象は、従来の思考の延長線上で理解できる。しかし、アメリカ金融業と情報関連業の好調は、これまでの常識的な経済観では、理解できない。とりわけ銀行業務を預金と貸し付けととらえ、ITをパソコンや薄型テレビの生産ととらえていては、決して理解できない。