こんなジレンマの中、Aさんは仕事を再開することができず、頭を抱えているのだ。しかし、それほどまでに現場によって感染対策にばらつきがあるというのか。Bさんがこう答える。
「私はすでに仕事を再開しましたが、正直言って私が今いる現場で感染対策について気にしている人はいないと思います。そもそも人手不足の状況ですし、目をつぶっている感じですね。プロデューサーもそんなに気にしていません。というか、制作会社には感染対策なんか気にしている余裕はありません」
各現場に放送局から「感染対策を取るように」という指示はあるが、感染対策のために予算が増額されているケースはほとんどないという。感染対策のために人員や時間を割けば、制作会社はそれだけ赤字になってしまう。だから感染対策を気にしている余裕はない、とBさんは言うのだ。
「僕が知るかぎり、NHKだけは感染対策のために予算が増額されている番組があるということですが、それもNHK本体が制作する番組だけで、NHKの関連会社が主体となって制作する番組だと増額はない、という話です。民放で予算が増額されている番組の話は聞いたことがありません」
テレビドラマのお粗末な実態
Bさんは、テレビよりも、映画やCMなどほかのエンターテインメントの現場のほうが感染対策がしっかりしているのでは、と感じているそうだ。
「もちろん現場によるとは思いますけれども、CMは予算に余裕がある感じです。僕がこの間参加した現場は、とてもちゃんとしていました。撮影時間もいつもの3倍くらいとっていましたし、スタジオも2つ使って、広い場所で撮影や準備ができるようになっていました。衛生の専門家が現場に配置されていて、医療指導として産業医の先生もいました」
それに比べてテレビは「完全に現場に丸投げです」と、Bさんは苦笑いする。
「本当に局の偉い人の意識がどのくらい高いか、ということに左右される印象です。基本的に現場の制作会社のプロデューサーは、局に言われるがままに動いているだけ。認識はとても甘いです。
局は現場のことにあまり責任感はなさそうです。『対策しといてね』というだけで、大型のドラマを除けば、よっぽど現場が好きな人以外は局の人は現場には来ませんね」
Bさんはまもなく「衛生担当者」として現場に入るそうだが、その現場では取られている対策もマスク、消毒、手洗い、うがいなどの基本的なものだけだという。
「カメラが回っているとき以外は、出演者の人にはフェイスシールドをしてもらうことになっているのですが、それも時間が押してきたらどうなるか不安です。何せ撮影スケジュールはまったく増えていませんからね」
撮影が始まる1週間ほど前になって、感染対策をどうすればいいかの講習会が開かれるケースが多いという。その講習会に参加して初めて、どんな対策をすればいいのか知らされて、もっとたくさん部屋を確保する必要があることが発覚して、大慌てをすることもあったそうだ。
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