ジョブズ、工業製品をアートにした男の生き様 孤独感がデザインへの異常なこだわりを生んだ

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レジス・マッケンナと語るスティーブ・ジョブス(レジス・マッケンナ所蔵)

では実際にジョブズは何をやったのか? あるいはやらなかったのか。伝記から拾っていくと、とにかく人を罵倒していたようだ。ののしったり悪態をついたりするのが仕事だった、と言っても半分くらいは間違っていないだろう。本人が執筆を依頼したというオフィシャルな伝記でも、ジョブズの尊大さ、逆上ぶり、冷酷さ、非情さは際立っている。際立ちすぎて読んでいるうちに食傷してくる。控えめに言っても嫌なやつだった。カジュアルな言い方をすれば「クソ野郎」ということになる。

それだけならただの性格破綻者だ。友達が1人もいなくなるタイプの典型である。ところがジョブズの周りにはつねに優秀なスタッフが集まっていた。ただその入れ替わりは早く、長続きする人は少なかったようだ。好意的に見れば、ジョブズがひとところにとどまらず、絶えず前に進み続けたということだろう。ついてこられない者は容赦なく切り捨てる。スタッフのほうでもストレスやプレッシャーに耐えられなくなって自らチームを離れていく。そうやってジョブズはチームを率い続けた。

その成果として、例えばマッキントッシュというユニークなパーソナル・コンピューターが誕生した。もしトップに立つ人間がジョブズ以外の者だったら、マックは別のものになっていただろう。これは彼に反感を覚える者も含めて、誰もが異口同音に口をそろえることだ。

ジョブズの「カリスマ性」をここで考えてみる

大きな人格的欠陥を抱えながらも、ジョブズにはまれに見るカリスマ性があった。ところで、この「カリスマ性」なるものがなんとも捉えにくい。言葉でうまく定義できるものではないようだ。また努力して身に付くものでもない気がする。試しにグーグルで検索すると、「カリスマ性のあるビジネスパーソンになる方法」みたいなコンテンツが幾つもヒットする。「他人を統率する才能や魅力をもった人」「リーダーシップを発揮し、人々を上手にまとめることができる人」「魅力のある言動ゆえに部下から慕われる人」などとカリスマ性を一般化したうえで、カリスマ性をもつ人の特徴や条件が列挙してあるが、この時点で肝心のカリスマ性は失われていると考えたほうがいいだろう。

あるサイトには「感情的にならず、どんな状況でも冷静に対処できる」とか「人の話にきちんと耳を傾けられる」とか「いつも前向きで明るい表情を絶やさない」とか書いてあり、思わず笑ってしまった。ジョブズにできなかったことばかりだ。要するに、ジョブズのキャラクターに近づこうと思えば、インターネットのサイトにあるような、「カリスマ性を身に付けて好感度を上げるためのトレーニング方法」とは正反対のことをやればいいことになる。

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