現代人に不可欠な「スキル」実は古典で養える 日本の古典にハマったイタリア人がみた世界
対照的なのはダンテの作品。ベアトリーチェという実在の女性がダンテの永遠のミューズとして登場しますが、描かれる彼女は、あくまでダンテという男性の視点から見た妄想の産物。ベアトリーチェ自身の声は残っていません。もし彼女にも表現の手段があれば、ダンテとは違う貴公子に思いを寄せていた、ファッション好きだったなどがわかったかも。「語られていない物語」があるんです。
現代社会では物語の重要性が高まっている
──最近、大学入試で古典を出題しない学校が増えてきました。古典教育は不要でしょうか。
実際に使うかという観点で古典の要不要を問われたら、もちろん不要です。それを言い出したら、ほとんどの教養が不要になってしまう。私が高校で学んだラテン語や古代ギリシア語も、日常生活で使うことはありません。ただイタリアではこうした知識をしっかり身に付けることで、学力の基礎が形作られると考えられてきました。だから将来医者や弁護士になりたい人も、高校では毎日のようにラテン語を学ぶのです。
古典を読むには、テキストと真摯に向き合うことが必要です。文法を理解し、文章の構成を把握する。これは外国語やプログラミング言語を学んだり、契約書を読んだりする際にも役立つ能力です。
──実用的な知識だけに触れていると、心はやせ細っていきますね。
現代社会では、こと物語の重要性が高まっていると思います。技術開発が進んだ結果、消費者は商品の性能で差別化することができません。その代わり、存在感を高めているのが商品の背景にあるストーリーです。お客さんに提案したいライフスタイル、ブランドの信念をつくるのは、物語を創作するのと同じこと。ただ、これをゼロから考えるのは難しい。長く読み継がれてきた古典文学に触れることがいちばんの近道だと思います。読めば読むほど、自分の中に面白い発想や表現が入り込んでくる。
古典になじみのない人は、まずは気になる作品の現代語訳を手に取り、気持ちよく読める部分を探すところから始めればいいと思います。
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