現代人に不可欠な「スキル」実は古典で養える 日本の古典にハマったイタリア人がみた世界

拡大
縮小

対照的なのはダンテの作品。ベアトリーチェという実在の女性がダンテの永遠のミューズとして登場しますが、描かれる彼女は、あくまでダンテという男性の視点から見た妄想の産物。ベアトリーチェ自身の声は残っていません。もし彼女にも表現の手段があれば、ダンテとは違う貴公子に思いを寄せていた、ファッション好きだったなどがわかったかも。「語られていない物語」があるんです。

現代社会では物語の重要性が高まっている

──最近、大学入試で古典を出題しない学校が増えてきました。古典教育は不要でしょうか。

平安女子は、みんな必死で恋してた イタリア人がハマった日本の古典
『平安女子は、みんな必死で恋してた イタリア人がハマった日本の古典』(淡交社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

実際に使うかという観点で古典の要不要を問われたら、もちろん不要です。それを言い出したら、ほとんどの教養が不要になってしまう。私が高校で学んだラテン語や古代ギリシア語も、日常生活で使うことはありません。ただイタリアではこうした知識をしっかり身に付けることで、学力の基礎が形作られると考えられてきました。だから将来医者や弁護士になりたい人も、高校では毎日のようにラテン語を学ぶのです。

古典を読むには、テキストと真摯に向き合うことが必要です。文法を理解し、文章の構成を把握する。これは外国語やプログラミング言語を学んだり、契約書を読んだりする際にも役立つ能力です。

──実用的な知識だけに触れていると、心はやせ細っていきますね。

現代社会では、こと物語の重要性が高まっていると思います。技術開発が進んだ結果、消費者は商品の性能で差別化することができません。その代わり、存在感を高めているのが商品の背景にあるストーリーです。お客さんに提案したいライフスタイル、ブランドの信念をつくるのは、物語を創作するのと同じこと。ただ、これをゼロから考えるのは難しい。長く読み継がれてきた古典文学に触れることがいちばんの近道だと思います。読めば読むほど、自分の中に面白い発想や表現が入り込んでくる。

古典になじみのない人は、まずは気になる作品の現代語訳を手に取り、気持ちよく読める部分を探すところから始めればいいと思います。

印南 志帆 東洋経済 記者

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT