ヒューリック、不動産業界で「一人勝ち」の事情 目標は毎期100億円増益、コロナが問うその実力

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2月に発表した2029年までの中長期経営計画では、毎年100億円ずつ増益を重ね、2019年12月期時点で846億円だった経常利益を2029年12月期に1800億円にまで成長させる。

ほぼ同時期の1月に長期経営計画を発表した三菱地所は、2020年3月期に2409億円の事業利益(営業利益+持分法投資損益)を、2030年度時点で3500億円~4000億円に伸ばす。増益ではあるものの、着地点には幅を持たせている。

計画発表時の記者会見で、同社の吉田淳一社長は「(向こう10年間の不動産市況は)いろいろな変化が生じるとは思っている」と答え、あくまで中長期的な視点で利益の成長を志向する考えを示した。

株価は小幅反発にとどまる

翻って、ヒューリックの場合は「年100億円の増益」を公言した手前、コロナのような想定外の出来事に見舞われようと、業績が未達となれば投資家を失望させかねない。実際、今回の決算発表前後でも株価は小幅反発に留まり、増益は大きなサプライズではなかったようだ。

ヒューリックの収益構成は不動産賃貸益と売却益がほとんどだ。賃貸益は新たなビルが竣工すれば加算される一方、売却益を増やすには、より高額に売れる物件を仕入れて利ザヤを稼ぐか、仕入れから売却までの期間を短くして資産回転率をあげる必要がある。

コロナ禍に備えて同社は2020年初から6月末にかけて現預金を約1000億円積み増している。手元資金の確保は「当面続けていく」(吉留社長)方針のため、投資に振り向けることのできる資金は限られている。代わりに借り入れによって物件を取得するにしても、ネットD/Eレシオは6月末時点では2.1倍。同社が財務規律として重視する3倍を下回っているが、やみくもに借り入れを増やせば、物件売却による資金回収が遅れたときのリスクが高まる。

経営環境も追い風一辺倒ではない。吉留社長は「長期の経営方針は大くくりでは変更しない」と話す一方、足元では保有・運営するホテルの稼働が低調に推移している。物件売却も投資口価格が軟調なREIT(上場不動産信託)は売却先として採用しづらい。そのため、単純な物件売却ではなく、売却の対価としてヒューリックが得意とするエリアの物件を受け取る「物件交換」へ軸足を移し、賃貸収入を強化する予定だ。

2008年の東証1部上場以来、同社は増益を続け、経営計画も前倒しで達成してきたが、それは金融危機後の金融緩和で押し上げられた不動産市況と、好立地のオフィスビルを潤沢に保有していた出自の恩恵に頼っていた面も否めない。自らに課したハードルをどう乗り越えるのか。コロナ禍は同社の本当の実力を問うている。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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