なぜ名経営者は紙ナプキンに図を描くのか? 思考をアップグレードさせる「図を描く習慣」

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ちなみに、本稿で述べている「図で考える力」は、与えられた問題を解く力、受験を突破する力とは異なります。受験における論理は、与えられた問題に対して、すでにある解答を頭にインプットし、記憶し、アウトプットすることです(極端に言えば)。これは本稿で言うところの「深く考える」ではありません。

ここで伝えたい「考える」は、真っ白な紙の上に、自分の頭で発想し、ものごとを理解していくことです。解くべきお題を与えられ、答えへの道筋がすでにわかっていることを試されるのとはまったく訳が違います。

真っ白な紙の上からスタートするのですから、何を考えるべきかも含めて考えなければなりません。これは、「本当の問題は何か」を考える問題設定の課題であり、100%正解のない問題に対して答えを出していくということでもあります。こんな能力はなかなか受験勉強では鍛えられません。
だから、高学歴の人と、「深く考えている」人の間の相関は必ずしも高くないのです。

図は完成しなくてもいい

本稿では、考えるうえで「図を描く」ことの重要性を示してきましたが、最後に大事な話を付け加えておきます。それは、「図は完成しなくてもいい」ということです。

図を描くという作業は、「考えるプロセス」そのものです。図との対話によって考えを広げ、深めるのが「図を描くこと」の目的です。決して完成させることが目的ではなく、図を拙速に完成させること自体に意味はありません。図を完成させることに意識が向きすぎると、図から学べなくなります(それゆえ、資料作成に意識が向いてしまうパワーポイントで図を描くことは避けたほうがいいと思います)。

図はじっくりと寝かせればいいのです(ワインのように)。未完成の図を宙ぶらりんにする居心地の悪さに耐えながら、頭の中でイメージを反復し、発想が湧くのを待つ。

これが「図を描いて考える」あるべき姿だと思います。

平井 孝志 筑波大学大学院ビジネスサイエンス系教授

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ひらい たかし / Takashi Hirai

東京大学教養学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。マサチューセッツ工科大学(MIT)MBA。早稲田大学より博士(学術)。ベイン・アンド・カンパニー、デル(法人マーケティング・ディレクター)、スターバックス(経営企画部門長)、ローランド・ベルガー(執行役員シニアパートナー)などを経て現職。コンサルタント時代には、電機、消費財、自動車など幅広いクライアントにおいて、全社戦略、事業戦略、新規事業開発の立案および実施を支援。現在は、経営戦略、ロジカル・シンキングなどの企業研修も手掛ける。早稲田大学経営管理研究科客員教授、キトー社外取締役、三井倉庫ホールディングス社外取締役。著書は『本質思考』他多数。

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