リニア「JR東海vs静岡」、わずかに和解の兆し? 県有識者会議で「JRに助言しては?」と提案も

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県が主催する中央新幹線環境保全連絡会議の専門部会の部会長も務める森下祐一委員(静岡大学客員教授)は、「上流域と中下流域の相関関係や連結性はまだ議論していないのに、今ここでするものなのか」と疑問を呈したが、福岡座長は、「今回の資料で上流と中下流の連続・非連続性も検討されている」として、議論を進める意向を示した。

7月16日の有識者会議配布資料。大井川に多数のダムがあり水資源には多くの人の手が介在していることがわかる(画像:第4回リニア中央新幹線静岡工区有識者会議資料より)

大井川の上流から下流に至るまでの間には田代ダム、畑薙第一ダム、井川ダム、長島ダムなど複数のダムがあり、それぞれのダムが多量の水を貯めたり、発電に使ったり、下流に放流したりしている。

沖大幹委員(東京大学教授)は「考えるべきは、大井川は人間の手によって操作されている川である」「水利用に際してもコントロールできるのではないか」と話した。

約2時間の会議では、森下委員から「新しい解析やデータを示すことが重要」と発言する局面もあったが、会議の終盤、福岡座長が「下流の水利用はダムをうまく利用してコントロールされ、上手に水位や流量が調節されているという方向性がデータにより見えてきた」と発言。それを引き取る形で、江口審議官が「福岡座長がおっしゃったようにある程度の方向性が議論の中で示されてきているので、中間とりまとめを整理していくことが必要だ」と発言して会議は終了した。

有識者会議の中間取りまとめや結論は、県の専門部会でも議論される。両者の考えが食い違うことはないのか。会議後の記者会見で、この点について江口審議官は、「国の有識者会議には県の専門部会の部会長や委員も参加している。有識者会議で決まったことが県の専門部会でガラリと変わることはないのではないか」と述べた。

ただ、「国の有識者会議の中間取りまとめや結論は全会一致で決めるのか」という記者の質問に対し、福岡座長は「わからない。全会一致なのか、多数決なのか、あるいは最後に私が”私はこう思うがよろしいか”と言うかもしれない。いずれにしてもいい形になればいい」と述べた。もし県の専門部会の委員を兼ねる委員の合意がない状態で取りまとめや結論が出されたら、それが県の専門部会で受け入れられるのか、若干の心配が残った。

県の有識者会議「JRの解析は不十分」

7月22日、県は専門部会を7月31日に開催すると発表した。いよいよ国の有識者会議が中間とりまとめを作成しようかという段階になり、国の協議状況を県で議論することが目的だ。

「東京からのお越しは遠慮いただきたい」。さっそく県専門部会の取材を申し込んだ記者に対して、県の担当者は、県内の新型コロナウイルスの警戒レベルを引き上げたことを理由に東京からの取材を拒んだ。

コロナが理由ではゴリ押しするわけにもいかない。「ならば、国の有識者会議が報道関係者向けにやっているように、インターネットで生配信してほしい」と頼んでみた。県は「会議終了後に配信することになっている」と難色を示したが、会議前日になって、「生配信する」という連絡がきた。会議の模様をインターネットで誰でも視聴できるようにするという。県は国に対して有識者会議を「全面公開」するよう要望している。情報開示で国に遅れるわけにはいかないという意思の表れだろう。

そして、7月31日。朝9時から県の専門部会の会議がスタートした。議論の中心になったのは国の有識者会議でJR東海が説明した水解析モデル。出席者の間で「解析モデルの精度が高くない」「データに過少な見積もりがあり信頼性が高くない」「複数の計算結果を出すべきだ」といった、JR東海が作成した資料に対する批判が相次いだ。

有識者会議と県の専門部会で話がガラリと変わることはないどころか、この日の議論の内容は真逆だった。

会議の結果を端的に言えば、蔵治光一郎東京大学教授の「可能な限り精密なデータを収集することが議論の出発点になる」の一言だ。つまり、県の専門部会の考えは「データが不十分なので、方向性が示されたどころか、議論すら始まっていない」ということだ。

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