リニア「JR東海vs静岡」、わずかに和解の兆し? 県有識者会議で「JRに助言しては?」と提案も

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ただ、約2時間の会議の最後に、国の有識者会議の委員も兼ねる丸井敦尚委員(産業技術総合研究所地質調査総合センタープロジェクトリーダー)が、「これまで疑問点をJR東海に質問するというやり方で進めてきたが、あまりにも時間がかかっている。納得できる答えが得られない場合も多い。本来やってはいけないことかもしれないが、こちらから、ここはこうしたらどうかという提案はできないだろうか」と難波副知事に質問した。

これに対して、難波副知事は、「自ら解析するのではなく、こういう解析をするべきだとか、こうしてはどうですかと提案するとか、そろそろ、そういうふうにしていかないとといけない。説明を聞いて指摘しているだけになっているので、われわれが”いちゃもん”をつけていると思われてしまう可能性がある。そうではなくて本質的な問題をきっちりと伝えられるようにしたい」と答えた。

難波副知事は5月7日に記者の取材に対して、「水問題を解決する案はないことはないが、私たちが提示することではない」という趣旨の発言をしていたが、今回は「提案してもいい」という。建設的な議論に向けて、やや歩み寄った印象が感じられた。

また、難波副知事は、国の有識者会議の「全面公開」をめぐって国と県が対立している問題にも言及した。国の委員会の形式は会議の冒頭のみカメラ撮りを行い、その後は報道関係者が傍聴。庁舎管理上、一般人の公開は控えるという形で「全面公開」としている。有識者会議もそれにならっている。実は県も「それならば仕方がない」といったんは納得した」という。

しかしその後、新型コロナの影響で第1回有識者会議はインターネットで報道関係者に配信されることになった。そこで、県は「インターネットなら庁舎管理は関係ないので一般に公開してほしい」と要請したが、国は「一般向けに生配信されると委員が自由な発言ができない」と、別の理由を持ち出して拒否しているという。このように丁寧に説明してもらえると、問題の所在がどこにあるのかがよくわかる。

わずかだが事態の打開に向け、光明が差したように見えた。

水資源問題はどう進む?

県の有識者会議の3日前にあたる7月28日、川勝知事の定例記者会見が開催された。「国の有識者会議で中下流域の水の影響は軽微という指摘が出たことをどう思うか」という質問に対して、川勝知事は「有識者会議は現段階で(軽微という)価値判断をするべきではない」と答えたうえで、机の上に置かれていたコップに水を注いでこう続けた。

「仮にコップに墨汁を1滴垂らします。1滴だからにごっていないと見るか、1滴垂らしたのだからにごっているとみるか、全然違います」。

にごっているかどうかという価値判断ではなく、墨汁を1滴垂らすという事実を見るべきと事例を示すための行為と思われるが、目の前で「墨汁が1滴垂れている」と言われたら、たとえその水がにごっていないようにみえても、にごっていないとは言いにくい。川勝知事ならではの巧みな話術だ。

さらに、国の有識者会議の公開のあり方をめぐって国と県の間で対立が続いている問題については、「約束が守られないなら、(結論に)心配が残る」と答えた。有識者会議は「全面公開」されていないので、その結論を受け入れない可能性があるとも取れる答え方だった。

次回の国の有識者会議では、トンネル湧水の水の戻し方について議論される。「静岡の水は1滴たりとも他県に渡さない」と主張する川勝知事が納得するような説明をJR東海ができるかどうかが焦点となる。

ただ、水資源問題が解決したとしても、まだ生物多様性の議論が控えており、先行きは見通せない。川勝知事は「リニアの大推進論者」を自認しているのだから、批判を繰り返すのではなく、JR東海に有益となるアドバイスをしてはどうか。全国から「リニア開業が遅れるのは静岡のせいだ」と言われたくないなら、他県の遅れを指摘するよりもずっと建設的だ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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