中国巨大電池メーカーが今「世界進出」を急ぐ訳 現地LIB市場トップのCATLが目指すものとは

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CATLの曾毓群会長は「コスト意識の強いイーロン・マスクが面白い人だ。われわれは電池コストの課題を解決できる」と話す(筆者撮影)

2019年8月末、テスラはCATLと電池供給について合意した。CATLが提示したリン酸鉄(LFP)電池価格は市場平均より割安の100ドル/㎏Whであるのに対し、テスラはさらに20%の値引きを要請した。CATLは大幅な値引きには応じない強気の姿勢を示していたものの、2020年2月には、テスラに2年間(2020年7月~2022年6月)の電池供給、供給量はテスラの需要に応じるとリリースした。

これまではCATLと電池供給契約を結ぼうとして日本企業も含めて世界の自動車メーカーが“CATL詣”をする状況であった。CATLがテスラと電池供給で合意したのは、LG化学を含むライバル他社からの攻勢への警戒感とともに、テスラへの供給によりブランド力の向上とLFP電池の生産強化を図る思惑もうかがえる。

カギとなるグローバルの供給体制

CATLが昨年から北京汽車に供給した新型LIBの「CTP」は、従来のモジュール工程を取り外して、電池パックの統合効率を現行の75%から90%に高め、電池の大容量および電池パックのコストダウンを実現できた。

CATLの新型電池CTP(筆者撮影)

また、開発を進めている長寿命電池は、使用可能年数16年、累計走行可能距離200万㎞を見込み、現行の中国標準(同8年、12万㎞)を大きく上回る。今年6月、同社は寧徳市で次世代LIBの実験施設「21C実験室」を立ち上げ、金属リチウム電池、全固体電池、ナトリウムイオン電池の研究開発、エネルギー貯蔵システム(ESS)や非破壊検査技術の開発などに取り組んでいる。

スイス投資銀行UBSの2018年レポートによれば、中国におけるLIBサプライチェーンは未成熟で、CATLの電池生産コストはパナソニックに比べ約3割高いと論じられた。いずれにせよ、グローバル市場では中国企業が引き続きキャッチアップする必要があり、とくに安全性の高い高容量電池分野では「日本企業に一日の長がある」と思われる。

今後NEV補助金がなくなれば、CATLは国内市場で有力外資企業に向き合わざるをえなくなる。そのときにグローバル市場における供給体制を構築し、製造技術とコストの面で日本・韓国企業と肩を並べる企業になっているのか。今後もCATLの動向から目が離せない。

湯 進 みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授

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タン ジン / Tang Jin

みずほ銀行で自動車・エレクトロニック産業を中心とした中国の産業経済についての調査業務を経て、中国自動車業界のネットワークを活用した日系自動車関連の中国事業を支援。現場主義を掲げる産業エコノミストとして中国自動車産業の生の情報を継続的に発信。大学で日中産業経済の講義も行う。『中国のCASE革命 2035年のモビリティ未来図』(日本経済新聞出版、2021年)など著書・論文多数。(論考はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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