香港金融人材の日本移住が簡単にはいかない訳 外国人には3つの障壁が立ちはだかっている

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しかし、マイケルのため息は止まらない。「イギリスは香港から遠いし、時差もある。広東語や北京語を娘に習わせる難易度も高いし、コロナの影響を受けていて失業率も高い。移住は日本と同じか、それ以上に難航すると思う」(マイケル)

「それに、なんといってもコロナウイルスの流行がまったく収まっていないよね。もし僕や家族が新型コロナに感染したら、医療費はどうなるんだろうか」(同)

8月10日時点で、イギリスの新型コロナによる死者数4万人超になっている。また、BNOパスポート自体についても、7月23日に中国外務省が「有効な旅券として認めない」と反論。先行きが見通せない状態だ。

ちなみに、マイケルは移住先の候補に、あえて台湾やシンガポールを入れていない。台湾は「10年以内には、香港と同様の状況になるのでは」という恐れに加え、金融ビジネスがそこまで発展しているわけではない。シンガポールは永住権を取りにくく、維持するための要件が厳格だからだという。

すでに他国の永住権を取得している人も

「もっと若いうちに、他の国で学ぶなり、働くなりして永住権を取っておけばよかったよ」。そう嘆くマイケル。同様の発想で、海外に移住したり、子供を海外留学させたりして現地で就労をさせ、世界各地で財と人脈を築いてきたのが「華僑」と呼ばれる人々だ。

筆者が見る限り、同じ香港人であっても、他国の永住権やパスポートを持つ人々にはあまり焦りが見られない。今後香港に何が起こっても、働く場所や住む国を、自分で選べるという自信があるからだろう。

マイケルの嘆きは、日本人にも何かを示唆しているように思えてならない。

富谷 瑠美 香港在住コラムニスト

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とみや るみ / Rumi Tomiya

2006年早稲田大学法学部卒。アクセンチュアで全国紙のITコンサルティングを担当したのち、日本経済新聞電子版記者、リクルートグループの編集者を経て、子連れで香港に移住。Twitterはこちら。

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