死について考える日々だったからこそ、「語りたい」と思ったHさん。けれど、家族に話せば「縁起でもない」と言われ、相手に余計な心配や不安を与える。がんの患者会ではタブーの話題だった。
「死についてカジュアルに語る」がコンセプトであるデスカフェは、相手の死の恐怖に共感しつつも、意見を肯定も否定もしない自由な語り場だ。「病気を伝えたときの相手の反応がいちばん気になっていた。参加者から『病気には驚いたけど、嫌な気持ちにはならない』と言われたことが救いになった」(Hさん)。
話すことで気持ちが落ち着き、考えが整理されていく。参加者が話すさまざまな「死に関する体験」によって、自分自身の経験が相対化されていくのも感慨深かった。
そんなHさんが参加し続けてたどり着いた答えは、「死ぬことは生きること」。みんな、いつかは死ぬ。だからこそ、この瞬間の時間を大切にしていきたいと思った。
「いつか、緩和ケア病棟やホスピスに移るとしても、できることは日々を精いっぱいに生きて、死んでいくことだけだ。だから、今を大事にしたい。残りの人生を、つらい気持ちを抱えた人に寄り添って生きようとあらためて思った」(Hさん)
がん患者さんの治療や生活を支える制度、社会資源などに関する相談や紹介の活動を行っているHさん。人から「ありがとう」と言われると、自分の存在した意義を感じるという。
コロナ禍でオンライン開催に移行
デスカフェにはさまざまな人が参加する。死について考えたい人、関係性の深い相手が亡くなった人、死に直面している人……。家族や友人とは話しにくいテーマ性から、参加者同士の心の距離はぐっと近づく。
「死を自分の問題として考えられない人がいても、そりゃそうだよねと思う。違う考えの人がいても、気にならない」(Hさん)
デスカフェはコロナ禍を受けて、リアルからオンラインへと場を移している。「オンラインは相手の共感などの空気感がわかりにくくて少し寂しいけれど、遠方の人と語り合えたのはよかった」と、Hさんは語る。
今回筆者が参加したデスカフェの主催者の一人、看護師の蒔田あゆみさんは、リアルとオンラインの両方でデスカフェを開催した経験を持つ。「デスカフェの魅力は死を経験して傷ついた人も参加でき、自然と話せること」と話す。
リアル開催もオンライン開催も、内容の質に大きな違いはない。オンラインだと、心身ともにリラックスできる自宅などから参加でき、遠方の人ともつながれるのが利点だ。
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