吉祥寺に「有名漫画家が多く暮らす」納得の理由 「少女漫画の舞台」として最高の環境だった

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田渕による『ライム・ラブ・ストーリー』も、『フランス窓便り』の文脈上にある作品である。通学電車の中で定期券を落とした主人公、嗣美のところに、拾ってくれた男子学生が届けに現れる。定期券を落として嗣美が降りるのは、吉祥寺だ。そして、その男子学生の家は三鷹にあるという設定になっている。

それほど情景は細かく描かれてはいないが、最後に2人が再会するのも、井の頭公園である。地方に住んでいた筆者が、吉祥寺を意識するのはこの作品からだった記憶がある。

少女漫画家を見ていくと、一条ゆかり、大島弓子、魚喃キリコが吉祥寺在住で、南Q太も以前は吉祥寺に住み、やまだないとは西荻窪というように、吉祥寺とその周辺には少女漫画の作家が数多く在住していた。

そのため一部ではあるが、作品の中で吉祥寺が舞台として扱われ、そのことが街のブランディングに寄与しているように思われる。少女漫画、とくに20代をターゲットにした作品としては、最高の舞台環境なのだといえよう。

江口寿史や大友克洋も暮らす

例えば、恋愛ものに不可欠な、マンション、アパートなどの居住空間、カフェ、バー、居酒屋などのコミュニケーション空間、百貨店、商店街などのショッピング空間、さらに憩いの場として理想的である、井の頭公園がある。

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また、例えば「いせや総本店」という焼き鳥屋は、多くの作品に登場するように、長きにわたって吉祥寺のクリエイターたちに愛されている。同様に、北口にある「闇太郎」という居酒屋は、クリエイターがよく顔を出す店として知られ、そのシャッターに描かれているイラストは、江口寿史の手によるものだ。こういった何気ない店の片隅で、彼らは交流し、そして意見交換を行っているという話も耳にする。

男性漫画家にも、楳図かずおや江口寿史、大友克洋、福本伸行など、吉祥寺近辺に漫画家が多数在住していることが、近年では注目されている。やはりまた、彼らの作品の中にその界隈が描かれることも少なくない。

漫画家は地方から上京という形が多く、吉祥寺をはじめとした中央線沿線に居住することが多い。利便性が第一であるだろうが、都市環境として創作意欲をかき立てるという点もあるのだろう。

増淵 敏之 法政大学大学院政策創造研究科教授

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ますぶち としゆき / Toshiyuki Masubuchi

1957年、札幌市生まれ。専門は文化地理学。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。NTV映像センター、AIR-G’(FM北海道)、東芝EMI、ソニー・ミュージックエンタテインメントにおいて、放送番組、音楽コンテンツの制作および新人発掘などに従事したのち、現職。現在、コンテンツツーリズム学会会長、文化経済学会〈日本〉副会長など公職も多数。

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