中国経済「想定以上の回復」でも継続性に疑問 上海株バブルの懸念と新卒の大量失業が併存

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反落のきっかけは、中国証券監督管理委員会(証監会)が、違法な「場外配資」を行ったとして証券担保融資プラットフォーム運営会社258社の社名を公表したことだ。「場外配資」は正規の信用取引のための保証金を用意できない個人投資家に資金を用立てて、10倍ものレバレッジを利かせた取引を可能にする仕組みである。

7月初旬の株高の背景には、経済復活を内外にアピールしたい中国政府が「官製相場」を仕掛けているという観測があった。そこに便乗したい個人投資家が無理をしてハイリスクの取引を試みる構図は、2015年夏に発生して世界に伝播した「チャイナショック」前夜と重なるものだ。

当時の経緯を振り返ろう。上海総合指数は2007年に6124ポイントをつけたあとは長期低落を続けてきた。それが2014年11月の利下げをきっかけに、企業の財テク資金などの流入によって上昇トレンドに入った。

決定打は2015年4月に中国共産党機関紙の「人民日報」に掲載された「4000ポイントは始まりにすぎない」と題するコラムだ。これを「官製相場」本格化のシグナルと受け取った個人投資家が殺到した結果、株価は同年6月にリーマンショック後の高値である5166ポイントをつけた。ところが過熱を警戒した当局が「場外配資」への規制を強化すると、パニック的な売りを呼んで株価は半年にわたって乱高下することになった。

「官製相場は儲かる」と思わせるな

著名なエコノミストの沈建光氏は「2015年の教訓から、『官製相場は儲かる』という印象を投資家に与えないようにする必要がある」と警告する。「新型コロナの影響が残るなかで、所得が低くリスク耐久力が乏しい層が株式で大損すれば、社会不安の要因を増すことになる」(同氏)からだ。

新型コロナの打撃を緩和するため、中国では金融緩和が続けられている。1-6月には金融機関の人民元建て融資は12.1兆元(約185兆円)で過去最高となった。その一部が不動産市場に流れ込んでいる。主要70都市のうち新築住宅価格が上昇している都市の数は3月には38だったが、4月に50、5月には59と着実に増加。さらに6月には63都市まで拡大するなど、不動産市場の回復は鮮明になっている。

とはいえ不動産市場では、住宅価格の高騰を避けるための規制が強い。そのため株式市場には不動産市場以上に大量の資金が入っているのだ。上海株式市場には海外からも香港経由で投資マネーが流入しており、その金額は1月からの累計で1700億元(約2兆6000億円)を超える。とくに6月中旬からその勢いが加速している。

持続的な株高は歓迎すべきだが、スピードが速すぎると「チャイナショック」の再演を招きかねない。そこで当局は2015年当時と同じように個人の資金源を断つ「場外配資」規制に打って出た。これにはオーバーキル、つまり株価を急落させるリスクもある。海外資金の受け入れ窓口である香港を取り巻く情勢が緊迫するなかで、中国当局のかじ取りも簡単ではない。

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