TOEIC400点でインド流ビジネスに挑んだ男 全日空・杉野健治/五感をフルに使って相手の懐に飛び込め
たとえば、街を車窓から眺めるのと歩いて回るのでは、理解できる世界がまったく違う。インド人の目線になって歩き、うだる暑さの中、道端の露店で甘ったるいチャイを飲む。興味深そうに近寄ってくるインド人と言葉を交わす。インド人はYesのときに首を横に振ることもわかってくる。
「ヨガを教えてと言うと、喜んで教えてくれるから一緒になってやる。昼はみんな弁当を持ってくるので、一緒に食べさせてと言って分けてもらう。相手の文化を知りたい、好きだということが伝わると、大抵のことは融通がきいてうまくいく。インドのそういうところが私は好きなのです」
インド人は神様が好きなので、日本酒の樽を日本から持ち込んだとき、「これはジャパニーズ・ホーリー・ウォーターだ、シバ神の額からガンジス河が噴出するように、樽を割るとホーリーウォーターが飛び出してくるのだ」と説明したこともあった。
映画を見ると、インド人のツボがわかる
では、インド人のマネジメントはどうしていたのだろうか。空港と事務所を合わせると、ムンバイに50人、デリーに100人ほどの現地スタッフがいた。最も気を遣ったのは宗教だった。
「インド人のおよそ80%がヒンドゥー教、10%がイスラム教です。あとはターバンを巻いたシーク教徒、ペルシャからきたパルシィという拝火教徒、インドとパキスタンが分離独立したときに逃げてきたシンディがそれぞれ1~2%。合計しても数%のシーク、パルシィ、シンディの人たちがインドの政財界を牛耳っています。だから彼らのしきたりも尊重する必要がありました」
シーク教徒はもともと闘う部族だし、パルシィ、シンディもタフで押しが強い人が多い。そういう人たちとの付き合い方は?
「とにかく相手の文化を尊重しました。拝火教の人たちは鳥葬をするので、それはなぜなんだ、自然に返すからだ、すごいなという話をしたり、カレーの味もマイルドで違うねとか。シンディは歴史的な経緯から、必ずしもガンジーが好きではなかったりすることも押さえておく。インドは映画大国なので、おすすめの映画を教えてもらって、何本も見ていると彼らのツボがわかってきました」
インドは転職社会と言われるが、杉野さんは、インド人のマネジメントはなるべくインド人に任せた。
「私が直接評価を下す数は、なるべく少なくしていました。ハイリスク、ハイリターンを求める人は欧米系の企業に就職しますが、日本的な終身雇用を求める人もいるんですね。そういう人を雇って、長く残ってもらえる仕組みを作りました。最初は10人くらい採用して、2~3カ月で4、5人やめて、残った人にじっくり教えていく。日本的なスタイルです。もともと仏教はインドから来ていますから、家族や目上の人を大事にするなど、精神性は合っている。それは利用させてもらいました。年功序列の意識も強いですね」
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