香港カレンシーボードに飛び火した米中対立 禁断の米ドル取引制限のリスクを見ておく
ブルームバーグは7月8日付で『米大統領側近が香港の米ドル・ペッグに打撃与える案検討』と報じた。中国による「香港国家安全維持法」制定を受けて、トランプ政権が対中制裁政策の一環として、香港の銀行による米ドル購入を制限することで米ドル・ペッグを基軸とするカレンシーボードに打撃を与えることを検討しているという内容だ。
あくまで「事情に詳しい複数の関係者」の話であるため、現段階での信ぴょう性は決して高いものではない。しかし、今後の国際金融システムを展望するうえでは極めて大きな話になりかねないため、筆者の考えを述べておきたい。
今回の報道はまだ観測の域を出ないが、すでにさまざまな分野に拡大している米中対立の性質を思えば、米ドルと密接な関係を持つ香港の通貨システムが争点化してくる流れは必然といえる。
6月22日の東洋経済オンラインの筆者コラム『香港ドルのペッグ崩壊に賭けたら勝てるのか』では香港のカレンシーボードは技術的には鉄壁であり、中国本土が政治的に認めるかぎり維持可能であると説明した。しかし、ブルームバーグの報道は、米国発で技術的にカレンシーボードの維持が難しくなる動きとして注目したい。
中国本土と同じくらいアメリカも脅威
今一度おさらいをしておくと、カレンシーボードは発行済み自国通貨ドルに対して100%同額の外貨を保有し、通貨当局が公定レートでの交換を保証するシステムだ。香港は現在、マネタリーベースの2倍以上、米ドルにして4400億ドル以上の外貨準備を保有し、香港金融管理局(HKMA)が「1ドル=7.75~7.85香港ドル」の公定レートを保証している。
仮に投機筋が今回の混乱に乗じて香港ドルを「投機的に売り崩す」という行為に踏み出しても、これが奏功するためには、外貨準備から発生する香港ドル買い・米ドル売りをすべて吸収したうえで、それを上回る香港ドル売りをしなければならない。
しかし、流動性が限定される香港ドルをそれほど調達して売りを浴びせようとすれば、途上で香港ドルの短期金利急騰は避けられず、投機筋の売り仕掛けは奏功せずに終わる。金利急騰で香港経済は痛むものの、公定レートは防衛できる。アジア通貨危機でも香港ドル相場が安定を保てた背景にはこうしたメカニズムがある。
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