香港カレンシーボードに飛び火した米中対立 禁断の米ドル取引制限のリスクを見ておく
つまり、カレンシーボードの要(かなめ)は「保有している外貨準備(米ドル)」である。ゆえに、米ドル関連取引をアメリカ側から制限すれば一気に制度維持が難しくなる。カレンシーボードの存続は本質的には中国本土の政治的意向がカギを握るはずだが、アメリカの意向も技術的には重要ということだ。
香港ドル相場が不安定化すれば、それは通貨の安定と共に「国際金融センター」の地位を享受してきた香港経済、ひいては香港を「外資系企業と中国本土をつなぐゲートウェイ」と位置づけてきた中国政府にとっても打撃となる。香港ドルを失う危機感から香港の中国本土に対する感情も一段と悪化するだろう。中国を政治・経済の両面から苦しめるという意味でカレンシーボードへの打撃は相応に効果的と考えられる。
アメリカも「返り血」を浴びる
だが、これはアメリカにとっては文字どおり「諸刃の剣」だ。香港が米ドル取引を禁じられれば、必然的に米ドル・ペッグ以外の道(人民元、通貨バスケットへのペッグなど)を探ることになる。となれば、現在保有している外貨準備が不要になり、放出される展開もありうる。その規模は4400億ドル以上、2019年末で世界第7位と決して小さくない。
その際の米国債市場の需給次第ではあるものの、香港の外貨準備の放出によってアメリカが「望まぬ金利上昇」という形で「返り血」を浴びる可能性は十分ある。世界の資本コストである米金利の意図せぬ上昇は当然、アメリカのみならず国際金融市場全体を揺るがす。今回浮上した制裁措置はこうした論点を視野に入れるべきものという理解が必要だ。
冒頭紹介したブルームバーグの記事は「米政権の一部はこうした措置を実行した場合、打撃を被るのは中国ではなく香港の銀行と米国だけになると懸念しており、同案に強く反対していると同関係者は語った」としている。明記こそされていないが、金利上昇という「返り血」を懸念したものだろう。また、記事は同案が「現在検討されている選択肢のリストで下位にある」と別の関係者が語っていることも紹介している。現段階で市場がそのリスクを織り込むまでの材料ではないのかもしれない。
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