東京が「金融センター」には到底なれない理由 香港混乱が続く中、再び構想が浮上している

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ある海外駐在員によれば、シンガポールと東京の生活費はあまり変わらないが、可処分所得には大きな差がある。「東京では100万米ドル稼いでも年度末には40万ドルになっている。シンガポールでは78万ドル手元に残る」と同氏は説明する。

さらに同氏が日本を離れた場合、金融資産には15%の出国税が課される。また日本で亡くなったり、日本を出国して5年以内に亡くなったりすれば、海外資産には最大55%の税金が課されることになる。

日本の相続税は最悪

対してシンガポールには出国税も相続税も存在しない。東京在住で最も影響力のある外国人投資家の1人は、「これが最大の問題で、ばかげたことだ。なぜなら、日本の最富裕層はすでに財産を国外に持ち出している。しかも、これは公にされていないが、外国人が日本を離れた場合、彼らの保有している海外資産を回収する手立てを日本の国税庁は持っていないのだ」と指摘する。

日本の税制のあまりの厳しさに、日本人の資産を担当する日本人の専門家までがシンガポールに逃れた。

「私がシンガポールに移住してきたのは、マリーナ・ベイの開発が進む14年前のことだ。1時間の時差は問題ではない。必要な場合は東京にアナリストを送ることもできる。日本の相続税は私にとっても子どもにとっても最悪のものだ。加えて、米中に挟まれた日本に住み続けるのは、長期的には危険だと考えている」と語るのは、日本人ファンドマネージャーだ。日本人の資産運用家が日本を離れるくらいなのだから、外国人がわざわざやって来る理由はない。

重要な課題であるにもかかわらず、日本金融を語る場で税制に触れるのはタブーになっている。国内で最も知られる年次国際金融イベント、CLSAジャパンフォーラムの元幹部はこう振り返る。

「2018年、都庁と会計事務所のPWCが、東京の魅力について講演してほしいと打診してきた。そしてその際、聴衆に対し、税制について質問することを一切禁止してほしいと言ってきた。そんなばかげた要求を呑めるわけがない。蓋を開けてみれば、彼らのプレゼンは聞いていて恥ずかしいぐらいだった。日本には英語を話せる人がいる、だから外国人は来るべきだ、というのが彼らの主張だったのだから」

PWCは、高所得者の顧客に対しては日本の税制について警告する一方で、東京を宣伝して報酬を得ているという。6月13日の自民党の提言には、税制に対する言及はなかった。

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