弁護士事務所の「乗っ取り」が相次ぐ深刻な背景 東京ミネルヴァ破綻で判明した弁護士事情
8回の処分の内訳は、最も軽い戒告3回、2番目に軽い業務停止5回。処分理由の大半は事件放置と怠慢だった。事務所をNPO法人の殻を被った非合法組織に乗っ取られていたA弁護士は、このNPO法人からの依頼を放置したり、怠慢な処理をしていたために、このNPO法人からたびたび懲戒請求を受けていた。
つまり、事件放置や怠慢な処理は、不法行為に荷担しないためのA弁護士なりの精一杯の抵抗だった。その事情を弁護士会側も理解していたため、これだけ懲戒回数を重ねても、退会命令や除名処分は出さなかったのだ。
増える50歳未満の懲戒処分者
過去15年間の懲戒処分者の処分時の年齢をみると、50歳以上が7~8割を占めている。近年は50歳未満の構成比が上昇傾向にはあるが、50歳代未満は法曹人口自体が大きく伸びている。全体の人数が増えれば懲戒処分を受ける人数も当然に増える。
新司法試験世代が法曹界にデビューする直前の2007年に50歳未満の弁護士数は全体の49%だった。それが2019年には64.8%に上昇(いずれも3月末)。一方、弁護士総数に対する懲戒処分者の割合は2007年は0.12%(数字は12月末。以下同)。直近でも0.1%とほぼ横ばいだ。これに対し、70歳以上の弁護士総数に対する懲戒処分者数の割合は、年によって変動はあるが、0.3%~0.8%と、50歳未満の3~8倍である。
川島弁護士の登録番号は4万3000番台である。ということは司法修習期は新63期で、弁護士経験10年目である。かつて所属した事務所のブログによれば、「ロースクールを出て最短で司法試験合格した」とあるので、年齢はおそらく35~36歳だ。
川島弁護士が所属弁護士会に駆け込むという、極めて珍しい選択をしたことと、その若さとは決して無関係ではないだろう。事務所乗っ取りに遭うのは、事務所経営に苦しんでいる比較的年齢の高い弁護士が多く、弁護士会の追及から逃げ回ることはあっても、自ら事態の打開に向けて弁護士会に駆け込む話はまず聞かない。
だが、川島弁護士はまだ若く、コトがコトだけに、今後刑事訴追される可能性もゼロではない。このため、失った法曹資格を取り戻すのに10年かかったとしてもまだ40代半ばで、やり直しはきく。
川島弁護士には過去に懲戒歴はなく、いきなり事務所破産という選択をした。弁護士会には是非とも隠れ破綻事務所の早期発見と、そのサポート体制構築を望みたい。
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