弁護士事務所の「乗っ取り」が相次ぐ深刻な背景 東京ミネルヴァ破綻で判明した弁護士事情

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事務所が乗っ取られていたのであれば、印鑑も川島弁護士の手元にはなかったはずだ。預り金が持ち出されるのを止めるために、破産手続きによって裁判所の管理下に入り、財産の保全を図ろうと考えても、弁護士印がなければその自己破産の申し立てができない。

そこで、6月10日に弁護士法人を解散。川島弁護士以外に10人近くいたとされる所属弁護士を他の事務所に移籍させるなどし、「第一東京弁護士会に駆け込んで債権者として破産申し立てをしてもらうよう頼み、第一東京弁護士会もこれに応じた」(東京経済東京支社情報部の井出豪彦氏)という。

第一東京弁護士会は、6月22日に東京ミネルヴァ関連の専用電話相談窓口を開設している。

懲戒8回でも除名にならなかったわけ

事務所を乗っ取られた弁護士に弁護士会がある種の配慮をした事例は過去にもある。

債務整理に伴い、2015年9月に弁護士法違反の罪で起訴され、刑が確定したことで弁護士資格を失ったA弁護士は、2005年9月からの10年間に、懲戒処分8回という前人未到の記録を持っている。

弁護士には自治が認められており、処分も弁護士会による懲戒制度をもって行う。懲戒処分には軽いほうから「戒告」「業務停止」「弁護士会退会命令」「除名」の4段階があるが、戒告が口頭注意レベルであるのに対し、業務停止はそれがたとえ1日であってもすべての顧問先を解約しなければならないため、各段に重くなる。

弁護士は事務所所在都道府県の弁護士会と、日本弁護士連合会の双方への加入が義務付けられており、退会命令が出ると、他の都道府県の弁護士会への加入ができなければ廃業を余儀なくされる。そして、除名処分になると即廃業である。

とかく身内に甘いという評価はあるものの、これだけ何度も懲戒処分を受けながら、A弁護士が退会命令や除名処分を受けなかったというのは極めて異例だ。

次ページ事件放置は精一杯の抵抗だった
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