「日本のコロナ対策」初期対応は成功したワケ 自粛は不要だったという批判はなぜ起きたか

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どの国も迷い予測不可能、冷静で客観的な意思決定が難しい中、限られたPCRのデータを数理モデルにあてはめて、「接触機会を80%削減すれば早期収束できる」と西浦教授が主張したのは相当の自信と胆力が要る行為です。そしてその結果、感染者数、死亡者数を抑え込むことができたのです。

当初日本はコロナの対応を失敗していると報道されていました。しかし日本のシステム、文化、日本人の特性、歴史的背景とデータサイエンスを融合させてみれば、クラスターを見つけてつぶすというのが最適解であると私は確信していました。そして徐々にその成果が明らかになると、海外の研究者や政策決定者から「あの少ない予算で日本は魔法を使ったのか」「日本をモデルにしたい」などの連絡がくるなど、明らかに批判から羨望のまなざしへと変わっていきました。日本の3密対策はいまやWHOもアナウンスするなど世界の先進的なモデルとなりました。

「自粛は要らなかった」という批判

さて、海外の専門家からの評価から一転して、国内では、「何もしなかったら42万人が死ぬといったが死ななかったのではないか」「経済が死んでしまう」「あんな自粛は要らなかった」「感染者が増えていないのではないか」などさまざまな批判が出てきました。クラスター班の中心であり自ら矢面に立った西浦教授への個人的批判も見られました。

しかしながらそれら批判はすべて結果が出た後です。自分はSNSやブログで事前に主張していたという方もいますが、科学的でなければ、それは一切言っていないと同じことです。つまり誰一人、専門家は批判していないといえます。

国家の生存に関わるような重大な政策決定に関わる専門家とは「その分野の実績が豊富な一流の研究者」か「その分野を含むさまざまな広範囲の分野に実績があり、それらを組み合わせたりどの分野の専門家とも協働できる広域専門家」しかいないと私は思います。

そして、専門家たるもの、しっかりとした批判をするならば、次の3つしか方法はありません。

(1)査読が早い雑誌に投稿(国際一流雑誌は48時間対応のところが多い)。
(2)専門学会の提言に関与する 。
(3)専門的実績をもとに、専門家会議やクラスター班に入るか、バックオフィスとして建設的な議論をする。

批判をする専門家と呼ばれる方を見ると、見事に①~③に該当しない方ばかりでした。あくまでも西浦教授は、エビデンスを出す側です。アイデアを採択し、緊急事態宣言を出したのは「政府」です。政府が決定したことについて、なぜエビデンスを作成した研究者が責められるのでしょうか?

西浦教授の感染モデル以外に新たな仮説を考え、自粛はいらなかったなど言い始めるのは、後出しじゃんけんです。振り返ってみてあとからこうだったというのは、非科学的でありまったく批判に値しません。特に西浦教授の「接触を減らすなどの対策をまったくとらなければ42万人が死亡する」という試算は、世界のトップ大学が集まった頭脳集団の試算よりも精密で事実に即していたことは、社会福祉のデータサイエンスの専門家として付記しておきます。

今回、研究者(専門家)が出しゃばった、政策決定に口を出しすぎという声も聞かれました。政治の究極的な選択の1つにどのくらい死者を許容するかの意思決定があります。戦争や震災、今回の疫病のように、死者がゼロというのはありえません。もし、経済の悪化が心配ならば、疫学の専門家と経済の専門家に適切に指示を出して、死亡と経済の価値の比較考量をするのが政治です。しかしそれをした経緯は見られません。よって「自粛要請」という、日本人の行動特性に期待することしか言えなかったのだと思います。

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