新型N700S、リニア暗雲吹き飛ばす颯爽デビュー 抜群の安全対策で東海道新幹線の主役を張る

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ヤード整備はタイミング的に瀬戸際の段階にあるが、そもそも有識者会議の議論が長期戦の様相を帯びつつある。肝心なトンネル工事自体の着工時期が見通せない。この点も2027年開業への不安材料だ。

会談の席上で、川勝知事は品川―甲府間の先行開業を金子社長に提案した。「リニアなら東京から20分で甲府に着く。甲府からは世界最速とは真逆の身延線特急で富士山をぐるりと回って静岡から新幹線で帰る。このパッケージは観光になる」(川勝知事)。リニアとローカル線と新幹線の合体というユニークな構想に対し、金子社長は、「リニアの妙味は東京から大阪まで直結することだ」として、苦笑するしかなかった。

一方で、金子社長は、リニア開業後は東海道新幹線が「ひかり」や「こだま」中心のダイヤになることから、「東海道新幹線の17駅中6駅が静岡県内にある。ひかりをどう停めようか議論をしており、静岡県にも必ずメリットがある」として川勝知事に理解を求めた。

リニア開業まではN700Sが主役か

金子社長の発言のとおり、リニアが開業すると東海道新幹線の役割が変わる。速達性を求める客はリニアに流れ、東海道新幹線の乗客は減る。前述のとおり、東海道新幹線にはほぼ7年おきに新型の新幹線が登場している。気の早い話だが、N700Sの次の新幹線が登場するとしたら2027年ということになる。くしくもリニア開業目標と同じタイミングである。

現在の東海道新幹線の車両は大量の客に座席を提供し、快適に移動してもらうことを最大の目標としているが、リニア開業後の東海道新幹線の車両はコンセプトが変わり、スペースに余裕を持たせるなど多目的な性格を持つものになるかもしれない。

しかし、リニアが開業するまではN700Sが東京ー名古屋ー大阪を結ぶ大動脈の主役として走り続ける。N700Sの「S」とは「最高」を意味する「Supreme」の頭文字である。「最高の安全対策」が本領を発揮する異常事態にはめぐり合いたくないが、この車両が提供する「最高の乗り心地」をこれから存分に堪能したい。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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