BRTは赤字・被災鉄道よりも大都市にふさわしい 地方でなく都市圏での導入にメリットがある

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しかし現在、白棚高速線改めJRバス白棚線は、多くの区間で一般国道を走っている。元の鉄道が国道から離れている区間のみ、専用道を使う形だ。国道289号と並走していた区間では、用地を提供し、国道と一体化して拡幅されている。利用客の便を考え、元の運転系統を維持し続けた結果、専用道経由が残ったと見るべきだ。

「並行する一般道を走ったほうが、速くて便利かもしれない」といった認識が生まれると、ローカル鉄道から転換されたBRTの将来は暗い。専用道は私道で、JR東日本など元の鉄道会社の私有地であるケースが多い。

維持管理費もゼロではない。その費用負担をしてまでBRTを維持する必要はない、公的な道路予算を投入している一般道を走る路線バスに統合した方が合理的ではないか。そういう考え方が生じてもおかしくはないことを白棚線の現状は示している。

地域に最適な交通機関を

三陸地方を襲った大津波からの復旧で注目を集めた分、BRTは今、一種の流行になっている気がしてならない。諸事情で鉄道の廃止が免れないとしても、一気に路線バス化するには抵抗がある。ならば、安上がりなBRTにしておこう。そういう考え方は、果たして妥当なのかと思う。

廃止前に三江線で行われた、バスによる社会実験。最終的に、この地域の公共交通は全面バス化された=2012年(筆者撮影)

2018年に廃止されたJR西日本の三江線では、2012年に、列車に加えてバスの便を増発し、利便性を高め利用客数の増加につなげられるか社会実験を行った。

その時、私がバスで乗り合わせた年配の女性の言葉が印象に残っている。曰(いわ)く「鉄道は高いところまで階段を上らなければ乗れない。バスなら家の前で乗れる。だから、足腰が弱った年寄りは、バスの方がいい」。

三江線の一部は昭和40年代の建設で、幹線鉄道並みの高規格であった。それゆえ途中の駅は、宇都井に代表されるように、高架や築堤の上に設けられた例が多かった。もし、鉄道をBRT化して元の駅の跡に停めたとしても、それが果たして少子高齢化が進む地域住民にとって便利なのか。過疎地なのだから、一気に路線バスにしたほうがよくはないか。そういう問いかけであったと、受け止めている。

心情からではなく、つねに「地域にとって、どんな公共交通機関が最適なのか」を客観的に考えること。それをもっとも重要視してほしいと、私は思う。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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