「コロナ失業」冷酷に切り捨てられる人々の叫び

長期自粛のダメージが長く広い範囲に及ぶ

名物の「うどんすき」で知られる日本料理店「美々卯」(みみう)を関東で展開する「東京美々卯」は5月下旬、新型コロナの影響で事業継続が困難になったと判断して、全店を閉鎖。約200人の従業員に退職合意書に署名するよう求め、応じなかった社員は解雇を通告された。

「確かに経営が厳しい時期もあったが頑張って切り抜けてきたので、新型コロナも乗り越えられるだろうと思っていたからショックだ。十分な説明や従業員への補償もなく閉店することには、納得できない」。同社で30年以上働いてきた50代の店長は心境を語る。同社従業員が加盟する全労連・全国一般労組は、解雇が不当労働行為に当たるとして、東京都労働委員会に救済を申し立てた。

「退職金はおろか引っ越し代すら出ないのに、寮から退去するよう求められて途方に暮れている」。入社3年目のホール主任の女性(21歳)は話す。女性は高卒後に九州から上京し、同社で働き始めた。「長年の常連客も多く、上司も面倒見がよい働きがいのある職場だった。事業を継続してほしい」。

寮住まいの期間工や派遣社員は仕事も住居も失う

リーマンショック時には雇用の受け皿となったサービス業が激震に見舞われる中、当時リストラの嵐が吹き荒れた製造業の雇用の見通しはどうなのか。経済産業省が5月末に発表した4月の鉱工業生産指数は現行基準で過去最大の下げ幅となり、業種別では自動車が前月比33%減と大きく落ち込んだ。

自動車産業は裾野が広いうえ、生産ラインでは正社員のほか、期間工や派遣社員など多くの人材を活用している。「自動車向けは4月から600人の増員が決まっていたが、新型コロナですべて白紙になった。全体で2500人程度の待機人員(休業)が生じる見通しだ」。ある製造派遣大手の経営者は厳しい見通しを示す。別の製造派遣大手幹部も、「トヨタ自動車は本体こそ派遣の雇用も守る方針だが、下請けになると厳しい。ある程度の待機人員の発生は覚悟している」と話す。

生産ラインで働く期間工や派遣社員は、メーカーや派遣会社が提供する工場近くの寮に住む場合が多い。雇い止めに遭うと、仕事と住まいを同時に失うことになる。

失職し生活困窮に陥った人への目配りは欠かせないはずだが、ここでも新型コロナが暗い影を落とす。5月1日、全国的にメーデー開催が自粛された中、三重県の労組「ユニオンみえ」はメーデーを実施。食事提供や生活相談を行う「派遣村」を開催した。

「住まいを失い蓄えも尽き、もう6日間も食べておらず死ぬことばかり考えていた。たまたまラジオで知ったことで、ここまでたどり着くことができた」。元内装業の50代の男性は安堵の表情を見せた。男性は労組の支援を受け、今は健康を取り戻したという。

他人と十分な距離を取る、多数で集まらないなどの新型コロナの感染予防対策が、支援の手が届きにくい環境を生み出しているのは間違いない。その中でどう小さな声を拾い、命をつないでいくのか。今回のコロナ雇用危機への対応には、複雑な連立方程式を解くことが求められている。

『週刊東洋経済』6月27日号(6月22日発売)の特集は「コロナ雇用崩壊」です。
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